第33話 蚕食

シェラザード達による静やかにして速やかなる敵砦の失陥及び接収と、ヴァーミリオン達による敵兵站線の分断破壊、そしてエニグマによる敵戦力の一つの滅却―――と、少しずつながらラプラス達を蚕食さんしょくしていく『魔界軍』。

特にその中で一番に活発な活動をしていたのは、一人と一機と言う非常に奇妙な組み合わせでした。

しかし、この『一人と一機』こそが、未明・未知の何者かによって失陥させられた軍事的戦略施設『砦』の奪還を主目的として編成されたラプラスの軍勢…当然その中には司令官になっている『魔法剣士』や『魔導司書』『陰陽師』などがおり、砦を奪還すると言う意気込みが手に取るようにわかるのでしたが……

そんな軍勢の一団を、『通信衛星ブロードキャスト・サテライト』を通じ、画面モニターに投影させて視ている者は……

{*なお、この「通信衛星ブロードキャスト・サテライト」と言う代物は、やはり魔界随一と言われている『狂乱の科学者マッド・サイエンティスト』の手による発明らしい。 しかもラプラスの世界に於いて“索敵”は地上のみであり、地上20000kmからによる超高高度の索敵は彼らの概念にはなかった模様である。}



ふうむ―――総勢10万と言った処か、中々の数のようだ。

そして小さな砦に反比例するかのように編成された陣容。

フフ……大体見えてきたね、どうやらこの者共の上に立つ者は、自己中心的で自分の領域を侵される事が余程に気に食わないらしい。

だから……だからと言って、それがどうした?お前達の気が向くままに蹂躙をされた『私の世界』……こうべを垂れ、泣いて赦しを乞うた処で済まされるものと思うなよ!



「那咤、『指令オーダー』だ、『敵戦力を殲滅せよ』。」

「<指令オーダー>――<受諾アクセプト> これより、指定された区域地点に向かい、鏖殺おうさつを展開いたします。」


魔王からの命令を受けた機械仕掛けの神仙は、これから出陣するラプラス軍のド真ん中に降臨おりたち、言われるがままに……


「<索敵サーチング>――<完了コンプリート> 陽子砲プロトンキャノン展開、重粒子加速砲ブラスター展開、電磁波砲パルス展開、一斉斉射。

……状況を確認、敵戦力60%を削除いたしました。」


突如上空から飛来してきた少女の様にも少年の様にも見える不可解なる者が、見慣れないつつの様なものを、その華奢きゃしゃにも見える痩身そうしんから幾つも出現させ、その者の意のままに一斉斉射した時、実に6割もの被害が出てしまった、しかしこのまま離散してしまえば何のために自分達が呼び集められたのかを司令官の一人から問われ、戦意を高揚させるラプラス達、これによって反撃の烽火は掲げられ、犠牲となった戦友達の為にと、生命を持たない人形に躍りかかる―――の、でしたが……


「敵の反撃に備えリバルサーを展開、同時に魔法攻撃による被害を無力化させる為≪万仙陣≫を展開いたします。」


その攻撃力もさながらに、防御に関しても特筆すべき点がありました。

直接的な『打撃』や『斬撃』、間接的な遠距離からによる『射撃』にも、術師が呪文詠唱する為に張っておく障壁の様なものでその身を防護し、しかも魔法による負荷や効果なども那咤を中心として半径3kmを無効化させる範囲防壁バリアで凌ぎ切った……


「{ふうむ……取るべき情報データの収集はこれで十分だろう。 もういいよ……}」

「<指令オーダー>――<受諾アクセプト> これより状況を開始いたします。」


             =カント・ダウン開始=


「くそぅ……どうなっているんだ、我等の攻撃が全く通用しないとは!」


           =安全装置セーフティ解除=


「しかも……直接攻撃だけではなく、私達の魔術による攻撃でさえも……」


            =エネルギー充填120%=


「し、しかもあの砲門……先程のモノとはまた違う―――」


            =3=  =2=  =1=


                 =0=


              ≪拡散波動砲発射≫


「ふうむ……出力40%で殲滅出来たか―――上出来だ。  また奪還の為の編成が為されるだろうが、編成を組めば組むだけこの子那咤のデータ蓄積になってくる。 そして気付く事となるだろう……私の魔界せかいを蹂躙したと同様、お前達の幻界せかいも蹂躙されている事を。

だが―――気付いた処でもう遅い、なにしろこちらは気付かれる事もなく、まさに蚕が桑の葉を蝕むように緩やかに状況を開始させているのだからね。」


機械仕掛けの神仙から放たれた一条の光は、前面に展開されていた多くのラプラスの兵達を呑み込みました。

そしてデータのサンプリングと現場状況のモニタリングだけをしていた魔王により、この後ラプラス達がどのように展開して来るかを事前予測シュミレートしていた……


これは―――『戦争』ではない……正しくは、圧倒的な強者による『生命の簒奪』。

眠れる獅子を起こさなければ、ここまでの惨劇・惨事・惨状とはならなかったのだろうに……


        * * * * * * * * * * *


そしてこの戦果を、「二大軍師」のそれぞれが受け取り―――


(ムヒ☆)「皆さん吉報です。 たった今魔王様が、この砦の奪還の為にと編成されたラプラス軍を殲滅させた、と。」(ムヒ☆)

「魔王様お一人で?……って事は、もしかすると≪闇の衣≫を発動させたんじゃ―――」


        * * * * * * * * * * *


「いや……それがどうもですねえ、今あの御方と行動を共にしているのが、『那咤』と言うらしくて。」

「那咤?聞いた事のないだな……」

「あ゛~~~まあそりゃそうでしょうなあ。 大体、『あの計画』自体、事前に発覚をしてお蔵入りしたって言う、曰くつきのもんだ。」


        * * * * * * * * * * *


「成る程……まあ序盤の段階で≪闇の衣≫や≪神意アルカナム≫と言う、こちらにとっての切り札を披露してしまってはね。」

「クスクス…まあそれはそれで構いませんでしょう。 そしてこれで状況の静観は終了です。 ここから一気に侵略開始と参りましょう。」


その反攻への皮切りは、他の誰でもなく魔王からだった―――『生命莫キ神仙』である那咤を始動させ、ラプラス軍の駐屯する拠点の一つ『砦』を接収した、この戦端をきっかけとして3方向からによる逆襲は展開されたのです。



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