第26話 那咤始動開始

エニグマが独自の方向性で自らの手下闇司祭を作成した頃、こちらの方でも……


「フフ~ン待たせちまったかね、出来たよ。」

「これが『異界転移門』!ハラショー! ではロード・マップを一つ進めさせるためにヴァーミリオン達の戦場にを投入させるとしよう。」


とうとう出来てしまった、異界へ転移する為の門。

そしてそれに呼応するかのように、既に完成させていた那咤の最終試験、そして調整を終えさせる為実戦の場に投入させることにしたのです。


その実験場たるべき戦場はオレイアから北西にある森林地帯でした。

そこにラプラスの世界から開かれたと思われる“孔”とラプラス達、そしてそんなラプラス達を待ち伏せる為に潜んでいるヴァーミリオン達…無論ラプラスの『宿曜師』『拳闘士』『守護騎士』『鍛冶師』達は潜んでいるヴァーミリオン達の事を知らない


知らない―――からこそ…


「(フ・ン)ヤツ等、急襲・奇襲には手馴れてても、に慣れちゃいないからね!  ≪古廐薙:斬の一刀 断宙≫」

「なんと脆い事でしょう、しかしこれも我らが主のお導きによるもの!!      ≪影殺;修羅道≫」

「だとて、情けなどかけられぬ!  ≪一閃;間引≫」

「フ・フッ―――あまり飛ばすでないぞ!これは単なる露払いでしかないのだからな!  ≪フレイム・ストライク;メルトダウン・シンドローム≫」


伏せられていた勢により、急撃された事で浮き足立ってしまうラプラス達。

その動揺で実に多くの―――半数以上もの兵力を失ってしまった『魔弾射手将軍』に、更なる災厄が降りかかる……


「〈索敵サーチ〉――〈完了コンプリート〉 これより掃討を開始いたします。」


突如として、音もなく、上空から舞い降りた存在。

どちらも“敵”か“味方”か判別がつかない―――なのに…


「〈情報照合データ・チェックアップ〉――〈完了コンプリート〉 個体名ヴァーミリオン以下3名を対象外とし、ラプラスへの攻撃の為の武器を選択。

読込ロード〉――〈完了コンプリート〉 12mm重機関バルカン砲を選択、弾頭には火竜鏢を使用致します。

装填チャージ〉――〈完了コンプリート〉――〈標的捕捉ターゲット・ロック・オン〉 斉射。」


初見であるハズなのに、“敵”か“味方”かを判別できる最低限の情報は保有していたものと見え、ヴァーミリオン達には自らが発射した弾丸が当たらない様にすると、みるみるうちに腕や肩口が変形し、ヴァーミリオン達も見たことが無いような形状の武器を象形かたちづくったのです。

そして数多と居るラプラス達を総て標的として捕捉し終えると、炎を纏った弾丸を雨霰あめあられの様に降らせた……?


「(な、何者だ?こやつは……私達を狙わないと言う事は、味方なのか?!)」

「(しっかし、何をどうしたらこうなるんだ?)」

「(面妖な……)」

「(けれど……こうも早く片付くなんて。)」


「〈索敵サーチ〉――〈完了コンプリート〉 敵残存ありません。」

「そなたは―――何者なのだ?」

「私……の名は『開発計画書番号Project第漆弌零玖型No,7109』。 以降は『那咤なたく』と、そうお呼びください。」

「その那咤が、何だってこんな処に。」

「それは、マスターであられるカルブンクリスと太乙真人からのご命令によるものです。」

「魔王様の?!それにその名前、太乙真人……!」

「ノエルは知っているの?」

「知っているも何も、私はマナカクリムのギルドマスターを務めていたんですよ。

そう言う立場にあったから、神仙の異能者の事も知っています。 その別称を『狂乱の科学者マッド・サイエンティスト』……新たなる概念を数多く『発明』し、実用化されたものもありましたが、逆に同じ数だけの『発明』も封印されてきたお蔵入りとなった事もあります。 まあブラック・リストに載るのは当然のことと言えたでしょう。」


一瞬の下に殺戮を展開させた自身自らが明かした事に、かつては重要な情報に目を触れる機会が他の3人より多くあったノエルはある存在の事を明かしました。

それが『狂乱の科学者マッド・サイエンティスト』と呼ばれた太乙真人―――しかしそんな狂人が、こんな『兵器人形』を開発した―――と言うのは判るにはしても、どうにも聞き捨てならない部分……


「それよりそなた、今何と言った?カルブンクリス……?私の盟友がそんな命を下したと言うのか!?」

「那咤は、その様に理解しております。」

「バカな……そんなはずはない!あんなにも生命をたっとび、多くの魔界の民達の事を考えて魔王ルベリウス一人を討つ事にのみ心を砕いてきた私の盟友が―――っ!!」


ヴァーミリオンには、ニルヴァーナには理解し難かった。

元々は知性の低かった自分が、その人物からの『諭し』により知識に覚醒め、『盟約の友』としてよしみを結んだ存在が、こんなにも生命を軽んじれるものを作れるはずがないとしたかったのです。

ですが例えヴァーミリオンがどんなに悩んだところで時間は待ってはくれない。

そうこうしている内に、彼女達が集っているこの地点に例の装置を携えてきた……


「おっ、時間通り片付けてくれたようだねえ、感心感心。」

「はい、お褒めに与りありがとうございます、マスター・太乙。」

「貴様……貴様か! カルブンクリスをたぶらかしおったのは!!」

「おっ―――と、よした方がいいと思うよ?」

「マスター・太乙への危害を確認、対処いたします。」

「ぐおっ?! 貴様……!」

「今のは警告の意味で発しました、次は、当てます。」


『現場』としては確保できたものの、自分の盟友の“豹変”も知れてきた―――以前、自分達が討った前代魔王の“豹変”ぶりを知っていたからこそ、自分の盟友も“豹変”してそうなってしまったのではないかと思ってしまったヴァーミリオンは、太乙真人に詰め寄った掴みかかったのでしたが、あらかじめマスターに危害が及ぶようなら『その危害のもとを排除すべし』との命令も受け付けていた殺戮人形からの手痛い反撃目からビームを受けてしまったのです。


それに――――――


「まあ、信じ難い事だろうけどさ、こいつ那咤の完成を急がせたのは、他ならないあんたの盟友様だよ。」

「そんな……バカなっ!」

「本当だってばさ、何より今代の魔王様はこれ以上の私達魔族の犠牲を望んじゃいない、とくれば、この生命莫キ神仙が今回の決戦の鍵となるだろうねえ。」

「おい、ちょっと待て?今なんて言った……『決戦』?!魔王さんは『今回』で決着ケリをつけようって肚なのか??」

「はい、那咤はその様に伺っております。」

「そして……その為の装置―――『異界転移門』がさね。」

「こんな……“石ころ”のように見えるモノが…」

「無駄に大きけりゃいいってもんじゃないよ、飽くまで『コンパクトかつハイ・パワー』それが私の開発理念コンセプトなもんでね。」




つづく



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