第12話 別離

 彼を追って。彼女が、店を出る。


「いいんですか。あなた、あの合コンの主役でしょうに」


 彼女。武器を構えるしぐさ。

 とっさに、彼も構える。


「あっ」


「あはは。あの頃のままだ」


「癖は抜けないですね。なかなか」


 ふたりで。なんとなく、公園のベンチ。


「仕事は、どうなんだ?」


「あの合コンが最後です。あの合コンで死ぬはずでした」


「でも、わたしがいたから逃げたってわけだ」


「あなたこそ、なんであんな合コンなんかに」


「しかたないだろ。それが、あんたの望む、わたし、の、姿。なんだから」


 なぜか。

 涙が出てくる。


「どこの誰かもわからない男と適当に付き合って。それで、なんとなく結婚して。なんとなく生きて。そして死ぬ」


「それが、普通の人の幸せです」


「目がちかちかして、嫌気が差すよ。きらいだ。あんなのは。好きでもないやつらと」


「じゃあ、好きになればいい」


「あんたは。死ぬのか。なんでだ」


「死ぬのに理由が必要ですか?」


「少なくとも、わたしには。必要だね。わたし今、生まれて初めて泣いてんだよ」


「嘘ですね」


「ああ嘘だよ。あんたに勝ったときも嬉しくてときどき泣いてるよ」


「疲れたんですよ。生きることに。仕事に。全てに」


「だから、死ぬのか?」


「普通の生き方が、できないので」


「わたしに普通の生き方を強制しといてか?」


 彼女。胸元をはだける。


「あざはもうないよ。あんたが、やめるって言ったから。パラミリーができなくなったから。身体はきれいになった」


 涙。胸元に、落ちていく。


「でも。心が。空っぽだ。だめだ。世の中の普通に。誰かと付き合って。それで、結婚して。なんとなく生きて。そんなのが。むりだ」


 彼女。しばらく、無言で泣いて。


「わたしも殺してくれよ。一緒に。それでいいよ。それならあなたと一緒にいられる」


「無理です」


「なんでっ」


 声が大きくなる。


「わたしはっ」


 それ以上は、言えなかった。踏み込む勇気がない。

 好きだとは、言えない。

 死ぬなとは、言えない。


「言えない。言えないよ」


「さ、この話は終わりです。もう合コンに戻ったほうがいい。俺のことは、まあ、ゲームの登場人物だったと思って。忘れてください」


「待って」


「いやです」


「おねがい。あとすこしだけ。もうちょっとだけ。ここにいて」


「だめです」

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