第十九話 呂布奉先、ローマを治める <序>

 呂大夫はにやりと笑い「馬鹿者め」と言った後、杯を仰ぐようにして空にした。


 顔を戻した呂大夫の顔からは笑みが消えている。


 「よいか布よ、漢は割れる。一年後か五年後かそれは儂にもわからぬ。


 だが漢帝国を積み木の山とするなら、土台となる木はもはや朽ち果てておる。


 あと一押で山は崩れる。多くの血が流れるであろうな…。


 そしてその崩れた山を元に戻すか、新しい山を築くか…それは」


 呂布の鼓動が早くなる。呂大夫はいったん言葉を切ると目を閉じて言った。


 「お前達次第だ」


 情味のある叱責を受けた呂布は素直に自分の言葉の過ちを認め、同時に腹下に火を放たれたような熱さを覚えた。


 自分は将来父の後を継ぎ村を治め、守ってゆくものだと思っていた。


 いや、これからも勿論そのつもりだ。


 だが、父は言った。


 世は乱れそれを変えていくのは自分達の仕事だと。


 呂布は争いが好きではない、できる限り平和に暮らしたいと思っていた。


 しかし体の中から溢れだすものは全く別だった。


 自分は心のどこかで乱世を望んでいたのか。


 戸惑いを隠すように呂布は話の核心についてさらに問うた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る