第十三話 呂布奉先、ローマを治める <序>
7日目の朝がきた。
昨夜から降りだした雨は空が明るくなる頃には上がっていた。
伯は昼まで自室にこもり、丘で可比能から聞いたことを思案していた。
昼食をとると1人で稽古をし、夕陽が沈むのを待って父の部屋へ向かった。
部屋の前に立つと伯は一度深く息を吸い、名を告げ戸を開けた。
部屋の中はすでに燭がともされ呂大夫とラクレスが胡座をかいて座っていた。
ちらちらと揺れる燭の灯りが2人の顔に濃い陰影をつけている。
「座れ、布よ。長くなる」
呂大夫は右手に杯を持ちいつもと変わらぬ声でそう言った。
ヒヤリとする。
呂大夫は今、伯の名を呼んだ。
姓は呂、名は布。
それが伯の本名である。
「伯」とは長男、お兄ちゃんという意味であり言わばあだ名ということになる。
中華では古来より人を名で呼ぶのは、目上の者以外では非常に失礼なこととされている。
つまり今日の話は家長として村長としての公的な話ということか。
呂布はいずまいを正して次の言葉を待った。
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