第4話




「はあ……なんで、頷いちゃったんだろう……」


 自宅に戻ってから、モニカは盛大に後悔していた。

 あの後、詰め所の前でモニカを待ちかまえていた友人達に、フォクシーが「初めまして。モニカさんの恋人でーす」と言いながら出て行って大騒ぎになった。

 根ほり葉ほり聞かれた質問にフォクシーは適当に答えていたが、モニカは生きた心地がしなかった。「恋人のふり」をして皆を騙すだなんて、自分には向いていないとモニカは思う。


(でも、フォクシーも助かるって言っていたし、フォクシーが「必要ない」って言うまでは私が「恋人のふり」していた方がいいのかな?)


 モニカが悶々と悩んでいると、帰宅した父のハンスがモニカの顔を見るなり、


「モニカ。フォクシーから聞いたが、あまり無理はするなよ」


 心配そうに眉を下げて言った。


「あいつは優秀だが、ちょっと考えなしなところもあるからな。お前より一つ年下だし、本物の交際じゃないとはいえお前がしっかりしなくちゃならんぞ。フォクシーのためを思うと付き合ってやってほしいが、お前が苦労するようならはっきり無理だと言いなさい」


 父によると、フォクシーはいつも見学に来たり帰りに待ち伏せしている女子達に「恋人出来たんで」と言って回っていたそうだ。

 それを聞いて、モニカはさーっと青ざめた。

 モニカの友人達にも「恋人だ」と名乗ったし、明日には村中に伝わっているに違いない。今さら、嘘だとか言えなくなってきた。

 フォクシーから偽の恋人を演じることを聞いたのか、ハンスはモニカの心配をしているが、モニカは自分のこと以上にフォクシーのことが気にかかった。恋人がモニカだと村中に広まってしまったら、フォクシーが恥を掻かないだろうか。だって、モニカは恋人にして自慢できるような華やかな美人じゃない。


(フォクシーみたいな格好いい人が、私みたいな冴えない女と付き合っているだなんて、不釣り合いだと笑われるんじゃあ……)


 モニカが笑われるのは別にいい。でも、フォクシーが騎士団の中で笑い者にされるのは気の毒だ。


(もっと綺麗な女性に頼めば良かったのに)


 フォクシーだったら、頼めば喜んで恋人役をやってくれる女子がたくさんいるだろう。


(明日から、どうなるんだろう……)


 明日のことを思うと憂鬱になってしまって、モニカは思わず溜め息を吐いた。



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