第26話 野球小僧-26

 放課後、いつものように公園のグラウンドに行くと、みんなが輪になって相談していた。例の挑戦状の件で相談しているのだなと思って近づいた。

「おい、大木、大変だぞ」高松

亮が来たことを見つけた高松が亮を招いた。

「どうしたの?」

「あのな、サンディが」高松

 高松の説明に亮は唖然とさせられたまま、何も言えなかった。


 山本が、イチローに挑戦状を渡してしまった。イチローは、面白半分に受けて立つと、野球部のメンバーに主張したが、監督の反対でとりあえず問題は鎮静化し、挑戦状は無視された。しかし、このあたりがよくわからないけども、山本とサンディが直々に監督に挑戦を申し込んだ。どうやら、イチローも一枚咬んだみたいだ。これで無視できなくなってきた。山本が、「無視すれば、負けるのが嫌だから無視したと全校中に掲示する」と、脅した。


「東先輩が、困って相談に来たんだ」高松

「どうして、そんなことに」

「山本の暴走だよ。何でも自分の思ったとおりにしようとするから、あいつは」小林

「そんなこと言っても仕方ないよ。どうするかが問題なんだよ」池田

「でも…、どうするんだよ」木村

「監督に謝れば、許してくれると思うけど、山本がな……」高松

「また、やるよな」池田

「どうして、サンディが?」

「サンディも、監督には恨みがあるだろうし、山本にそそのかされたんじゃないの」池田

「サンディはとにかく試合がしたいから、そそのかされて、その気になったんだろ」高松

「どうする…?」小林

「サンディは来てないの?」

「大木と一緒だと思ったんだけど、違うの?」高松

「んん、サンディは更衣室で着替えてから来るから、大体いつも別だよ」

「そうか、同じクラスだから、一緒に来るかと思ったんだけど」高松

「山本と一緒じゃないの?」中沢

「たぶん」小林

 話が停滞して、沈黙が漂っていた。薄曇りから静かに陽が差してきて、じりじりとした暑さが感じられてきた。それでも、名案が生まれない限り、沈黙を保つしかなかった。

 高松が我慢しきれずに、切り出した。

「こうしていても、仕方ないし、監督に謝ってくる」高松

「でも、キャプテン」池田

「いいよ、山本の方は後で何とかしよう。とりあえず、謝って、穏便に済ましてもらってから、考えよう」高松

「僕も行きます」小林

「みんなで行こうよ。そうすれば山本の暴走だってわかるってもらえるから」木村

「そうしよう。仕方ないよ」池田

誰も拒否するものはなかった。

 重い腰を上げて、ぞろぞろと学校へ帰る途中、向かい側から山本とサンディがやってきた。サンディは大きく手を振って駆け寄ってきた。

「リョウ、ゲームができます!」サンディ

「サンディ、どういうこと?」

「おい、山本。ちょっと来い!」高松

「なんですか?」山本

「なんですかじゃないだろ!おまえ、何したかわかっているのか?」高松

「あぁ、試合のことですか」山本

「試合って、そんなもんじゃないだろ。挑戦状なんて穏やかじゃないこと言いやがって。どうする気だ!」小林

「まぁまぁ、いいじゃないの。試合ができるんだから」山本

「待て、山本。どういうことだ」

「野球部と練習試合が決まったんですよ。今週の日曜日の午後」山本

「待てよ、勝手に決めるな」小林

「いいじゃないの。いつもいつもキャプテンにばっかり相手を探してもらってちゃ悪いから、俺も探してきたんだ」山本

「待てよ、挑戦状を送るのが、探すってことなのか?」高松

「あんまり堅いこと言わないの。結果的に試合ができるんだから」山本

「山本ぉ、いいかげんにしろ!」小林

「うるせえな!どっちにしろ、遅かれ早かれ野球部とはやらなきゃなんないんだ。だったら一気にやっちまおうぜ。俺とサンディがいりゃあ、野球部相手でも負けねえぜ」山本

「二人で野球ができるわけないだろ。みんなで楽しく野球をするのが僕たちの愛球会じゃないか。それを勝手に、何やってるんだよ!」小林


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