第3話 野球小僧-3
サンディはアメリカで野球――ベースボール――をしていたということだった。
「子供のときから、ずっと、ベースボールをしていました。トテモ、ジョウズだと言われました。でも、女だから、メジャーはダメだと言われました。トテモ残念です。でも、ワタシが大人になったら、女でもメジャーに入れるかもしれません。日本もそうだと聞きました。女の人でも、メジャー…日本では、プロフェッショナル・ベースボールというのですね、プロフェッショナル・ベースボールに入れると聞きました。ワタシ、日本で、選手になってもいいと思っています。コウシエンにも出たいです」
快活なサンディに亮は圧倒された。
「ワタシ、この学校のチームに入りたいです。監督にお願いに行きます。一緒に行きましょう」
亮は一瞬自分が断られたときの光景を思い出した。あの監督のことだから多分サンディも断られるだろうと思いながら、もし、サンディが受け入れられたならば、と想像して嫉妬していた。
グラウンドに近づくと、練習はもう終わっていた。が、バックネット裏で監督と数人の選手が話をしていた。赤松先生が近づいて監督を呼んだ。
「あ、ちょっと待って。何か用ですか?」
監督は選手をそこに待たせたまま、赤松先生の呼びかけに応えた。
「すいません、実は……」と、サンディのことを紹介し始めた。
サンディはにこにことしたまま監督の顔を見ていた。亮は、さっき断られたばかりだったので、監督の目線が自分に向けられないことを願いながら、それでも動向が気になってちらちらと様子を伺った。
「ということなので、彼女を野球部に入れてやってもらえませんか?」
赤松先生の話を聞くやいなや、監督は大きくため息をついた。
「何をバカなことを。いいですか、うちのチームがどれだけ強いか知っていますか。選手も多いし、彼女が少しくらい上手くても、うちの洗練されたメンバーの邪魔になる」
「でも、中学生ですし、もっと遊びの気分を持って、やりたい子を…、やる気のある子にやらせてあげることも大事じゃないですか?」
「それは、草野球的発想だ」
監督の一言で赤松先生は何も言えなくなった。自分と同じだと亮は思った。
「自分さえ楽しければいいというのは、先生、草野球ですよ。野球に限らず、全てのスポーツは、勝敗が決まる。その勝敗を通じて、人生の何たるかを学ぶことになるんです。勝てば嬉しい、負ければ悔しい。勝つためにはどうすればいいか、負けたのは何が悪いのか。そうしたことに悩み、そうして克服して、自分を磨くんです。そのためには、勝つことが第一の目標となるわけです。軟弱なオママゴト的発想を、スポーツの世界に持ち込まないで欲しいものです」
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