第112話 逃亡者、小山くんと戦う

僕が滑り降りてきて、これで全員地上に帰還した。


児玉君が目に見えて落ち込んでいるけど、触れないことにする。


「帝都か王国領近くのミハイルって領主様の街どっちに行く予定?それとも他に何か行くところがある?」

僕は確認する。ちなみに僕とミアはミハイル様の街に行く。どっちにも急ぎの用はないんだけど、それならフィル達がいるミハイル様の街に行こうというだけだ。

帝都にいると皇帝から面倒な事を言われる可能性もあるし。


「聞かれても、よくわからないんだけど……」

委員長に言われる


「ああ、そうだよね。僕とミアはミハイル様の街に帰るよ。帝都には皇帝がいるってだけで、後はあんまり変わらないよ。もちろん街自体は帝都の方が大きいけどね」


「ちょっと相談する時間を頂戴」

委員長達は行き先の相談を始める。


「影宮、今のうちに一戦頼むよ」


「小山君は話し合いに混じらなくていいの?」


「委員長と先生で決めるだろうから問題ないよ」


「そっか。それなら巻き込まないように少し離れて向こうでやろうか」

約束したから仕方ない。付き合うことにする


「僕もだいぶ強くなったから、手加減しなくて大丈夫だ。勝てるとは思ってないけど、どこまで出来るのか知りたいから本気で頼む」

小山君が言った。


「本気でやったら多分死んじゃうけどいいの?」

一応聞くことにする


「……死なない程度にお願いします」


小山君の期待を裏切らないように、手加減はするけど本気で勝ちは取りにいこうかな。


僕達は少し離れて対峙する。


ミアに開始の合図を頼んであるので、お互いに準備が出来たところで合図をしてもらう。


僕は収納から杖を取り出す。


「影宮の武器は杖なのか?そこまで手加減しなくてもいいよ」

小山君が言うが、これは真面目に勝ちにいった結果だ。


「大丈夫。これでいいよ」


小山君は持っていた剣を構える


「ミア、準備できたからお願い」

僕はミアに準備完了を知らせる


「うん、わかった。それじゃあ始め!」


合図と共に小山君がこちらに向かってくる。

小山君のスキルは接近戦に特化しているので当然近づこうとする。


僕は土魔法を使い、小山君との間に壁を作る。

そんなに高い壁ではない。これは小山君を近づかせないようにするのが目的ではなく、一瞬でも僕の姿を見えなくするのが目的だ。


さて、近づかないことには勝機のない小山君はどこから攻めてくるか……上か。

小山君は壁の上にジャンプして立つ。


僕は初めの位置から動いていない。

しかし小山君は僕の姿を見失い、キョロキョロと探す。


僕はゆっくりと移動して小山君の首元に杖の先を添える。


「そこまでです。お兄ちゃんの勝ちです」

ミアが僕の勝ちを告げる。

ミアの位置からは僕の姿が常に見えていたようだ。


「なんでだ?見失いはしたが、まだ何もされていないよ」

納得していない小山君の前に僕は姿を現す。


「うおっ!…びっくりした。……何をしたんだ?」

急に僕が目の前に現れて小山君は驚く。


僕は隠密を使っていただけだ。

しかし、隠密は姿を見られている時には発動しない。

だから僕は、土の壁で僕の姿を見えなくしてから発動した。


位置的にミアからは僕の姿がずっと見えていたのだろう。

だから隠密発動中もミアには僕の姿が見えていたのだ。


「僕の勝ちだね。何をしたかは秘密だよ。またこうやって戦うかもしれないからね。本気を出してはいないけど勝ちにはこだわってみたよ」


「もう一回頼むよ。何も出来なさすぎた。走って飛んだだけだよ。今度は剣で頼むよ。僕が遠距離じゃ戦えないのはわかるでしょ?」

小山君は早くも再戦を申し出る。今度は接近戦を望むようだ。


「後1回だけだよ。委員長達の話し合いも終わったみたいだし」

委員長達は話すのをやめて観戦していた。


「わ、わかったよ」

僕は杖をしまって、村正を取り出す。


「この禍々しい武器はなんだよ?」


「僕の愛刀だよ」

呪われているのだから禍々しいのは仕方ない


「ミア、また頼むよ」


「うん、それじゃあ始め!」

ミアの合図で小山君が迫ってくる。

今度は接近戦を約束したので、正攻法で戦うことにする。


この戦いは剣聖の職業や剣術スキルをステータス差でゴリ押し出来るかどうかが勝負を分けることになると思う。

だからこそさっきは接近戦をしない選択をした。


小山君が剣を振るう。

早い!ステータスからは考えられない動きだ。


僕はとりあえず村正で受けようとしたけど、なんと村正をすり抜けてきた。

斬られる!そう思ったけど小山君は空振りした。

小山君が当てないようにしたと一瞬思ったけど違った。

小山君の剣が根本付近から切られて短くなっていたからだ。


「は……?」

小山君は呆然とする


そんな小山君に村正を突きつける。


「僕の勝ちだね」

僕は内心驚きながらも、顔に出さないように気をつけて言った。


まさか斬りかかった小山君の方の剣を、受けた村正の方が切り落とすとは思わなかった。

滑らかに切りすぎて、切れた感触もなかった。


「そこまでです。お兄ちゃんの勝ちです」

ミアが僕の勝利を宣言する


「僕の剣が…………」

小山君は負けたことよりも、剣が使い物にならなくなったのがショックのようだ


「ご、ごめんね」

僕は謝っておく


「か、影宮が悪いわけじゃない。でもなんで斬った方の俺の剣が切れるんだよ」


「それはあれだよ、きゅうりで刀を斬ろうとしたようなものだよ」


「僕の剣はきゅうりなの?」

例えが悪かったようだ。


「それくらい切れ味が違うってことだよ」


「……譲ってはくれない?」


「ダメだよ」


「それなら貸して欲しい」


「それならいいけど、呪われてるからどうなるかはわからないよ。僕はスキルで呪われないだけだから」


「……やっぱりいい」

聖女の委員長もいるし、呪われても大丈夫ではあると思うけど、やっぱりやめるようだ。


「じゃあ2回とも僕の勝ちってことで終わりだね」


「あ、ああ。2回とも何もしてない気がするけどね」

小山君はへこんでしまった。


僕はそんな小山君を1人にしてあげて、委員長達のところに行く。


「それで行き先は決まった?」


「観戦してたからまだ決めてないわよ」

行き先が決まったから見ていたわけではなかったようだ

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