第86話 逃亡者、病気を治す

村で待つ事1日、篠塚くんが到着した


「待たせて悪かったな、そっちの子がお前が言ってた仲間か?……どこかで会った事あったか?」


「気にしないで、この子が治療するミアだよ。王国の城でメイドしてたから見たことはあるはずだよ」


「言われてみればそうかもしれない」


「お兄ちゃんの妹のミアです」


「妹?」


「妹みたいな存在ってことだよ」

僕はクラスメイトにミアを紹介するたびにこの問答をしないといけないのだろうか?


「あ、ああ。深くは気かねぇよ」


「う、うん。ありがとう。それじゃあ案内してくれる?」


「ああ、こっちだ」


篠塚くんの案内で歩いて行く


「恩人の人のこと聞いても良い?なんで恩人なの?」


「王国から逃げる時に、出来るだけ食料は持ち出したんだけど、帝国領に入る前になくなってしまってな。金もないから買うことも出来ないし、追ってが掛かっているかもしれないから働くことも出来ずにいたんだ。そんな時にあの人に出会ったんだ」


僕の時は収納に食料詰め込んでたし、お金はミアが持ってたから良かったけど、普通はこうなるよなぁ


「苦労したんだね」


「ああ。空腹のまま帝国領を目指していたんだが、限界で倒れてしまって…その時に助けてもらったんだ。その時は親切な人だなぁくらいにしか思ってなかったんだが、この村に帰る途中だったこともあって一緒に行動させてもらったんだ。そんな素振りは俺に見せなかったけど、一緒にいれば流石に獣人への扱いってのは嫌でもわかった。それに俺に分けてくれてた食事もほとんどない自分の分を分けてくれてたんだ。それからかな、この人の為に何かしたいと本気で思ったのは……」


「やさしい人に出会えてよかったね」


「ああ、本当にな。着いたよ、この家だ。話だけ先にするから少し待っててくれ」


「うん、わかった」


篠塚くんが家に入っていき、少しして戻ってきた。

篠塚くんの頬が赤くなっている


「…中に入ってくれ」


「うん…大丈夫?」


「ああ、先日のことを話したら殴られたよ……」


「治そうか?そのくらいなら僕でも治せるけど?」


「いやいい。これは俺のケジメだ」


「そっか」


僕達は中に入る

中には痩せた獣人の男性と獣人の女性がいた。

奥に横になった獣人の子供も見える


「シノブが世話になったようだな。ありがとう」


「シノブ?」

誰のことかな?


「影宮、ちょっと待て!俺の名前だよ、もしかして忘れてたのか?」


「そんな事ないよ。篠塚くんって呼んでたからすぐにピンとこなかっただけだよ。……ほんとだよ?」


「……うそだな。うわ、ショックだわ」


「ご、ごめん」


「いいけど、もう忘れないでくれよ」


「うん」


よく考えたら、他のクラスメイトの名前も何人かわからない気がする。本人に会ったらバレる前に鑑定で確認しよう。

篠塚くんの名前も鑑定で見てたはずなのに気にしてなかったからね


「すいません。はじめまして、ハイトです。こっちは妹のミアです。もう聞いたかもしれませんが、息子さんの治療にきました」


「ハイト……ミア……いえ、ありがとうございます。もう長くはないのはわかっているんですが、少しでも長く生きて欲しいんです。息子は今はもうほとんど目を覚さなくなってしまいました。」

なんだろうか?僕達のこと知ってるのかな?

冒険者の中では有名ではあるかもしれないけど……


「少し観させてもらいますね」


僕は鑑定する

状態は衰弱になっている。

軽い病気でも自力で治すことが出来ないのだろう。それで悪化してしまって手の付けようがなくなってしまったようだ。


「ミア、衰弱してるのと、多分その影響で臓器への負担も大きくなってるんだと思う。フェンの時とは違って毒とかではないよ」


「うん、わかった」


ミアが治癒魔法を掛ける


「これで大丈夫だと思う。でも体力までは回復しないから、ゆっくりと栄養をとらせてあげないとダメだと思う」


「病気自体は治りましたよ、あとは元気になるまでは消化の良いものを充分に食べさせてあげてください」

僕は両親に伝える


「ありがとうございます」

なんだろう?涙を浮かべて喜んではいるけど、なんだか浮かない顔もみえる


「なにか不安でもありますか?」


「いえ、大丈夫です」


「遠慮せずに言ってください」


「この子を見れば分かると思いますが、満足に食べさせてあげることが出来ないんです。栄養のあるものと言われても正直難しいです。でもそこまで甘えるわけにはいきません」


「篠塚くんをあなた達が助けた事は聞きました。こんな状態なのに食事を分けてあげたと。今度はあなた達が助けてもらう番です。遠慮せずにもらってください」

僕は収納から食料とお金を取り出す


「ありがとうございます。でもこんなにもらうわけにはいきません。最低限だけ頂きます」

少しだけ受け取り、残りは返された


「ある分には困らないはずです。生きる為だけではなく、たまには贅沢をしても良いはずです。何かの為に持っていてください」


「そう言われましても……」

強情である。


「わかりました。これは篠塚くんへ貸すことにします。余裕が出来た時に別の形で返してもらうことにします。それなら良いですよね?篠塚くんもあなた達に恩を返したいと言っていましたので。」


「……シノブはそれでいいのか?ハイトさんはあげるつもりで言ってるみたいだが、それは俺が許さんぞ。俺に恩を返したいという気持ちは嬉しいが、ハイトさんにこんなに借りを作ってお前は返せるのか?」

篠塚くんは本当にいい人に出会ったようだ。

だからこそ悪い事にも手を染めたのだろう


「影宮、俺に出来ることならなんでもする。だから今は甘えさせて欲しい。」

僕は返された食料とお金を篠塚くんに渡す

本当は気にせずにもらって欲しいんだけど、そう言うなら一つお願いをしよう。正直、篠塚くんのスキルは役に立つ


「それなら1つだけお願いを聞いて欲しい。―――――」

僕は篠塚くんに頼み事をする


「わかった。任せてくれ」


「それと聞くの忘れてたけど、委員長達見てないよね?」


「ん?王国にいるんじゃないのか?」

だよね。委員長に会ってたら、委員長がこの子を治してたと思うし。


「今は王城からは逃げ出してるよ。どこにいるかはわからないけど。見かけたら念話で知らせてね」


「わかった。また連絡してくれ。本当にありがとう」


僕達は篠塚くん達と別れて、帝都に向けて再出発した

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