第84話 逃亡者、密かに近寄る

また10日掛けて帝都に帰る。


また暇な時間が続くと思っていたけど、途中立ち寄った村で思いがけない人を見つけた


僕のことには気づいてないし、隠れてるみたいだから声を掛けるかどうか迷う


「お兄ちゃん、どうしたの?」


「知り合いを見つけたんだけど、なぜか隠れてるみたいだし声を掛けようか迷ってたんだよ」


「どの人?」


「あそこの木の側にいる人」


「わかんない、木の近くに人なんていないよ?」


「木の右側だよ。黒いフード被ってる男の人」


「……そんな人いないよ?」

僕にだけ見えるようだ。まさか幽霊?

…………そっか、スキルだ。

僕は鑑定をして気づく


だとしても、ミアから見つからないのはすごいな。

僕からははっきり見えるのに……


僕が同じスキル使ってる時も周りからは同じように見えているのだろうか?であれば隠れる必要もないな


「隠密のスキル使ってるんだと思う。ミアもスキル使えば見えると思うよ」


「いいの?こんなことで使って」


「いいよ。どうせ少ししたら回復するから」


「うん、じゃあ使うね」

僕の体から魔力が持ってかれる


「本当だ、全然気づかなかった」


「ミア、そろそろいいかな?」

ミアが感心している間もどんどんと僕の魔力は持っていかれる


「あ、ごめん。解除したよ」


「ありがとう。で、どう思う?話しかけてもいいと思う?そもそも覚えてる?」


「覚えてない。話しかけたらまずそうな空気はあるけど、隠密のスキル使ってるんだよね?だったら話しかけてもいいんじゃない?お兄ちゃんも隠密使えば周りには何も見えないよ」


やっぱりミアは覚えていないようだ。

僕も城で見た記憶がほとんどないからしょうがない。


「ミアの言う通りだと思うから行ってくるよ。何かあったら念話で教えて」


僕は隠密を使って彼に近づく


「久しぶりだね。今まで何してたの?」

僕は無視される


「……ねえ、僕も隠密使ってるから大丈夫だよ。何から隠れてるかは知らないけど……」

まだ無視される。


「無視しないでよ」

僕は彼の肩を揺らしながら言う


「うおっ!」

彼はすごく驚きながら振り返った


「……久しぶりだね、篠塚くん」


「影宮か…ん、影宮?え?亡霊か?」


「いや、生きてるよ。それにさっきから声掛けてたのにずっと無視するし。一応、死んだと思ってたクラスメイトとの感動の再会だよ」


「何言ってるんだよ、急に肩を揺らされて俺は驚いたんだぞ」

……篠塚くんには隠密を使った僕が見えてなかったようだ。

隠密は一度認識すれば、その後は見失うまでは視認できる


肩を揺らすまでは認識されなかったと


「ごめんごめん。僕も隠密使ってたからさ」


「なんで俺が隠密使えるって知ってるんだ?てか、そもそもなんで俺に気づいたんだよ?隠密中の俺に気づいたやつなんて今までいなかったぞ?」


「僕も聞きたかったんだけど、篠塚くんって武道家じゃないよね?姫野さんからそう聞いたんだけど」


「いや、だからなんで知ってるんだよ」


「それは今は言えない。篠塚くんが敵か味方かわからないから。敵なら捕まえる。味方なら助ける。中立なら……手助けくらいはするよ」


「影宮の敵ってのは誰のことだ?俺は影宮と敵対するつもりはないけど、結果的に敵かもしれない。俺はこの世界で恩人が出来た。その人達をお前が害するつもりなら俺は容赦しない」


「篠塚くんってそんなキャラだったっけ?もっと……クールだったよね?」


「気を使わなくていいよ。あの頃の俺はどこか冷めてたんだよ。誰とも関わろうとしてなかった」


「うん、そんな感じだったね。雰囲気が違いすぎてビックリしたよ」


「……それで、影宮の敵は誰だ?」


うーん、話してる感じ篠塚くんに悪い印象は受けない。

僕は敵対しない事を願いつつ篠塚くんに質問する


「篠塚くんは王国についてどう思う?」


「……クソだな。だから逃げた。お前の処刑を見て踏ん切りがついたっていうのに生きてたなんてな。結果オーライだったがな」


「クラスメイトのことはどう思う?」


「なんとも思ってない。……いや、違うな。助かればいいとは思うけど、助けたいとは思っていない」


「帝国のことは?」


「思うところはあるが、王国よりは良いと思う。だが、帝国の一部は俺の敵だ」


「魔族は?」


「よく知らん。イメージと違って悪い噂は聞かないな」


「獣人は?」


「……いい奴だ」


篠塚くんは嘘がつけない人なのだろう。


「篠塚くんの恩人ってもしかして獣人なの?」


「だったらなんだ?お前もそっち側か?」

空気が変わった気がする


「いや、篠塚くんとは敵対しなくて良さそうで安心したよ。僕もこの世界の獣人の待遇には思うところがあってね。なんとかしたいと思ってるんだよ」


「ほんとか?嘘だったら許さねぇからな」


「本当だよ。篠塚くんは王国に一番近い帝国領の街には行った?ミハイル様が領主の街」


「ああ、行った。あそこはクソだったな」


「最近は行ってない?」


「ああ、行ってないな。なんとかしてやりてぇとは思うけど、俺が大事なのは俺の恩人の獣人の人であって、獣人全員じゃねぇからな。まあ、獣人の差別を無くすことで恩を返せると思っているから無関係ではねぇけどな」


「あそこの街の獣人への差別はかなり無くなったよ。完全にでは無いけどね。あそこの街の領主のミハイル様は獣人に対して差別しない良い人だよ」


「信じられないな。あそこの街は特にヤバかった。良くなった想像が出来ねぇ」


「あそこの街は商業ギルドが差別を増福させてたんだよ。知ってた?だから、僕が潰した。……物理的に」


「何言ってるんだ?」

篠塚くんは理解が追いついていないようだ


「今度行くことがあったら見てみればわかるよ」


「あ、ああ」


「それで、なんで隠れてるの?」


「今更かよ、俺は要人の護衛中だ。要人は良いやつではないけど報酬がいいからな。そいつのせいで誰かが不幸になるのをわかってて俺は護衛している。幻滅するか?」


「篠塚くんがそれで後悔しないなら良いと思うよ。それでこれからなにをするの?」


「はぁ。普通はそんな情報は言わないんだぞ。まあ、隠したところでお前にはバレそうだし教えてやるよ。他のやつには言うなよ。俺から漏れたってバレるとマズイからな」


「わかった。誰にも言わない」


「ここからずっと東に行くと大陸の端に村がある。そこに変わったスキルを持った女がいるらしい。そいつに仕事の協力を頼みにいくそうだ。まあ、断られたら無理矢理にでも連れていくみたいだから最低な仕事だな。」


「その村ってエド村だよな?」


「知ってるのか?」


「今、そこの村から帝都に帰る所だよ。篠塚くんの為に言っておくよ。今回の仕事からは降りるべきだ」


「それは出来ない。俺には金がいるんだ。」


「そこの村には僕の知り合いもいる。僕と敵対してでも続けるつもり?」


「ああ」


「なんでそんなにお金がいるの?」


「恩人の子供が病気なんだ。金があれば治療が受けれて、長くはなくてもまだ生きれるかもしれない。俺はその人がいなければ死んでた。だから俺はお前とも戦う覚悟はある」


「その子供はどこにいるの?」


「どうするつもりだ?」

篠塚くんに睨まれる


「病気を治すんだよ」


「影宮が治療できるのか?」


「いや、僕じゃない。僕のいも…仲間が治癒魔法を使えるよ。絶対じゃないけど良くなると思う。」


「急には信じられないな」


「それなら、お金だね。いくら必要なの?」


「あればあるだけだ。金貨10枚でも100枚でも、いくら掛かるかわからないからな。診療所で診てもらって治らなかったら、次の診療所に行くしかないから」


「わかった、これあげるよ。足りなかったら帝都の冒険者ギルドを訪ねれば貰えるようにしておくから。」


僕は金貨500枚を渡す


「これ、本物か?なんでこんなに持ってるんだよ?」


「色々やってたらいつの間にか手に入ってたよ。遠慮せずに使ってほしい。でも、そこらの診療所に連れていくなら僕のい…仲間に治癒魔法掛けてもらった方が絶対にいい。これは断言するよ」


「ありがたいけど、借りは作らない。金は自分で稼ぐ。今回もお前が邪魔しなければ問題ないはずだ」

金貨は返されてしまった


「篠塚くんは勘違いしているよ。僕の知り合いがいるとは言ったけど、止める理由は違うよ。害そうとしている女の子に手を出したら多分死ぬよ?返り討ちにあって」


「何言ってるんだ?俺も自分の力は把握しているつもりだ。同じクラスメイトならまだしも女の子に負けるわけないだろう」


「僕は忠告したからね。気が変わったらさっきも言った通り帝都のギルドに顔を出して欲しい。僕に話が通るから」


僕はそう言って篠塚くんと別れた

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