第79話 逃亡者、思案する

「お兄ちゃん、まだ起きないの?」


茶番の裁判をしてから数日、僕は惰眠を貪っていた


「最近ずっと動きっぱなしだったし、たまにはゆっくりしてもいいと思うんだよ」


「それはわかってるけど、同じこと昨日も一昨日もその前の日も聞いたよ。そろそろ動いてもいいんじゃない?」


やらないといけない事が溜まってるのはわかってるんだけど、どうすればいいかわからないんだよね。頭じゃなくて、体を動かせばいいだけなら楽なのに。


「そうだね。でも魔王城の行き方は冒険者ギルドに任せちゃったし、王国との戦の方は何をしたらいいのかわからないんだよね」

僕は言い訳をする。


「別にそういうつもりで言ったんじゃ無いよ。寝てばかりは良くないよってだけ」

ミアに母親のようなことを言われた


「…とりあえず起きるよ」

僕はベットから起き上がる


「朝ごはんはそこにあるよ。……もうすぐ昼だけど。食べたら少し散歩でもしてきたら?」


「うーん、そうするよ」


僕は帝都の街を歩く

どうやったら一般の人を巻き込まずに王国の改善が出来るか考えながら……


あの国王が改心すればいいんだけど、それは無理だろうな


皇帝の言う通り、王国には戦で負けてもらって帝国が王国を取り込んじゃうのがいいのかなぁ


でも戦になったら、一般の人も徴兵されるだろうし、親や兄弟、友人なんかを帝国に殺されてから、体制が変わって生活が豊かになったところで感謝しないだろう。それならこのままの方が良いと言うと思う。


王国の悪政に関わっている人だけをなんとか出来ればいいんだけど……

誰が私腹を肥やしてるかなんて僕にはわからないし、皇帝に調べてもらってリストをもらったところで、どの人のことか分からない。鑑定して名前を照合しながら動くのは大変だ。

そんな悠長な事してたら気づかれて大事になる。

そしたら僕が単身で突撃するのと変わらない。


戦で全員殺さずに無力化出来ればいいんだけど、流石に無理だよな。

いや、出来なくはないだろうけどやってるうちに帝国側に被害が出るだろう。


見える範囲に全員が居て、僕だけを攻撃してくれればいけるのにな…


「おい、そこの兄さん。そんな難しい顔してどうした?」


屋台の店主に話しかけられた。

顔に出ていたようだ。


「いえ、考え事をしてまして」


「何を考えてるかは知らないが、一休みしたらどうだ?美味い肉でも食ってさ」

店主は肉串を見せてくる


「そうですね…。じゃあ1本買います」

僕は肉串を食べる


「おじさん、この肉焼いてからタレ付けてます?」


「そうだが、それがどうした」


「いえ、タレつけてから焼いた方が美味しくないですか?……これはこれで美味しいですけど」

好みの問題かもしれないけど、肉串はタレが少し焦げた感じの方が美味しいと思う


「ああ、元々はそうしてたんだかな。タレつけて焼くと網が焦げてすぐに使い物にならなくなるんだよ。常連に聞いたら、安くなるなら後付けの方がいいって言ったんでやり方を変えたんだ。前の味がいい奴は割増で料金を頂いている」


「そうだったんですね。割増で払うので先にタレつけたやつももらっていいですか?」


「おう、まいど!」


この店主は思考が柔軟だな。

羨ましい。


食べたらまた王国のこと考えないと。

戦で一般人を巻き込まない方法だよね……


いや、待てよ。別に王国の領土を帝国の管理下に置きたいだけで、戦がしたいわけではないんだから、別の方法で領土を奪えばいいんじゃないかな……


例えば、領土を賭けたギャンブルをするとか。

流石にギャンブルは無いと思うけど、王国が乗ってきそうな条件で実はこちらが勝つような方法があれば……


なんかそう考えたら、いけそうな気がしてきた。

王国が乗ってきそうな事を考える


警戒されないように一見どちらにも平等の条件に思える内容で、王国にメリットがあると思わせておいて実際には帝国が領土を全取り出来る。そんな都合の良い方法……


しばらく考えて、僕はいい案が浮かんだ。

王国との交渉次第ではいけるかもしれない


僕は皇帝の元へと向かう


「皇帝に会いたいので取り次いでください」


僕は城の入り口で兵士に伝える


「紹介状はお持ちですか?」

考えが甘かった。いきなり来ても会えないか……


僕が出直そうかと思っていると


「ハイト様、この者が大変失礼致しました。皇帝陛下に取り次ぎますので中でお待ち下さい。この者への処罰はこちらでしておきます」


隣にいた先輩と思われる中年の兵士が対応していた兵士の頭を下げさせる


「気にしてないので処罰とか本当にいいですから……。案内お願いします」


「ありがとうございます。私が案内させていただきますのでこちらにお願いします」


僕は中年の兵士について行く


「皇帝陛下、ハイト様をお連れしました」


待合室みたいなところに案内されると思ったら、直接皇帝の所に案内された


「ご苦労!お主は下がってよいぞ」


「は!」

中年の兵士は下がっていった


「ハイトよ、我に何の用だ?」


「皇帝に王国との件で相談がありまして……」


「聞こうか」


僕は皇帝に考えを伝える


「乗ってくるか?」


「可能性はあると思います。前回、兵士が500人、何者かにやられたのは王国も知っているでしょう。戦をするならその人物を警戒してるはずです。今話した作戦なら王国は乗ってくるんじゃないですか?」


「断られたらどうする?」


「断られないように皇帝には頑張ってもらいたいてすが、その時は戦をするしかないでしょうね。出来るだけ犠牲が出ないように制圧します。他に案があればいいですけど……」


「よかろう、我がなんとかして王国との交渉を成功させてやる」


「お願いします。結果が出ましたら教えて下さい」


後は皇帝に任せよう。


僕は皇帝に別れを告げて、宿に戻る


「ただいま」


「遅かったね。どこまで行ってたの?」


「散歩して、外の空気を吸ったらいい案が浮かんでね。皇帝と話をしてたんだよ」


僕はミアにも考えた作戦を伝える


「どう思う?」


「交渉次第かな。始まれば問題はないと思う。その後に王国が約定を守るかどうかが心配だけど」


「守るかどうかはわからないけど、その後の事は考えてあるから大丈夫だよ」


「なら大丈夫だね。後は魔王城に行く方法が早く見つかればいいね」


「そうだね。冒険者の方に期待してゆっくりと待つ事にしよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る