第75話 逃亡者、皇帝の頼みを聞く

「我の頼みが何か聞いてもらう事にしようか」


皇帝の頼みがなんなのか、王国と関係している時点である程度予想がつく。


「聞かせてください」


「王国に戦を仕掛けるから帝国に付いて戦ってくれ」

やっぱりだ。


「お断りします」

さっき皇帝に関係ない人を巻き込みたくないと言ったばかりなのに


「まあ、待て。話を最後まで聞け」


「なんでしょうか?」


「我が領土を広げる為に戦をすると思っていないか?」


それ以外にする必要があるのだろうか?


「違うんですか?」


「違う。…我の推測が正しければ、お主は召喚された異世界人だろ?」


皇帝はどこまで知っているのだろうか?

僕の処刑のことまで知っているのではないか?


「……。」


「ふぅー。部屋から全員出ろ!2人で話をする」


「よろしいので?」

執事服の男が皇帝に確認する


「我の身を心配しているのならば大丈夫だ。そもそも此奴ならこの人数相手でも一瞬で終わらせておるわ」


「かしこまりました」


皇帝を残して、皆部屋から出て行く


「ここでの話は誰にも話さないと約束しよう。もう一度聞くぞ、お主は異世界人だな」


「……、はい。皇帝陛下は僕のことをどこまでご存知ですか?」


「何を心配してるか知らんが、正直に言ってミハイルから届いた書状に書かれていた事以外、何も知らん」


「ミハイル様の手紙の内容を僕は知らないんですが……」


「ミハイルからはお主に見せるなと書かれているが、見るか?」

うーん、気になるな。見るなと言われると特に。


「見させて下さい」


皇帝からミハイル様の手紙を受け取る


手紙の内容のメインは、僕がどれだけ常識知らずで何するか分からないから注意するようにとの内容だ。失礼な!

後は僕がやった事が淡々と書かれていた。

商業ギルドの建物を崩壊させたとか……

ダンジョン攻略したとか……

王国の兵士の腕を斬り落としたとか……


今度ミハイル様に会ったら僕のことを本当はどう思っているのかじっくり聞く事にしよう


「……これ以外の事は知らないと?」


「ああ、正直に言うとお主が異世界人だろうと、無かろうとどちらでも良いのだ。王国の主力は異世界人になるだろうから聞いたまでだ。」


信じるならば、僕が死んだことになってる事は知らないようだ。

皇帝を信用するのであれば知られても良い事だけど…


「話を戻すぞ。王国から来たのであろう?今の王国をどう思った?」


「酷い状態だと思います。国王は民を道具のようにしか思っていないように感じました。辺境の村は生きるのがやっとといった所でしたよ」


「我はそれをなんとかしたいと思っている。だからこそ協力を頼みたい」


「戦の理由はわかりました。でも……お断りします。」


「放置したところで、王国は攻めてくるだろう。位置的に、またミハイルの領土が戦場になる。それでいいのか?結局、戦とは無関係だったはずの人間が犠牲になるんだぞ?」

言いたいことはわかっている。


「……わかりました。協力します。但し、条件があります。それと、ミハイル様の領土に関しては言わないといけないことがあります」


「聞こうか」


「魔王様に会いに行く事を優先します。その上で準備が万全になるまでは、こちらから動かない事。僕の知り合いの救出に協力する事。そして、指揮は僕が執る事。以上の条件を呑めるなら協力します。」


「準備が万全とはどの状態だ?」


「関係ない人を巻き込まない準備です。」


「その間に王国が攻めてきたらどうする?」


「それについては対策を既に打ってあります」


「……よかろう。全ての条件を飲む。開始の判断もお主が決めろ。最前線の指揮は任せる。人員についてもお主が選べ。そのかわり突破された場合は、我々の指示に従ってもらう」

無茶な条件を出したつもりだったけど、通ってしまった。


「それで大丈夫です」


「それでミハイルの領土について何かあるのか?」


「ミハイル様の街には信頼できる仲間がいます。低く見積もっても、王国兵が攻めてきたところで怪我一つしないでしょう。隊の主力が召喚された同郷だとしても、前回と同じ程度のレベルであれば問題ないと思います」


「そんな話はミハイルから上がってきていないが……」


「これは、僕が個人的に皆にお願いしたことです。ミハイル様はもちろん、帝国も関係ありません」

ミハイル様は知ってはいるけどね


「そういうことにしておいてやる。……感謝する」


「先程言った対策はそれですので、王国が攻めてきてもしばらくは大丈夫だと思います。もしかしたら僕が何もしなくても終わらせてくれるかもしれません」

正直にいって、今あの街にはSランクの冒険者が2パーティと2人いるようなものだ。負ける要素がない。


「しばらくは帝都に滞在するんだろ?」


「それはわかりません。魔王様に繋がる情報があればすぐに離れる可能性もあります。」


「そうか、帝都から出る場合は一言、言ってからにしてくれ」


「わかりました」


「我の要件は終わったが、他に何かあるか?」


「……僕を探している人がいたら教えて下さい。同郷の人かも知れません」


「わかった。お主の事については、些細なことでも我に報告が来るようにしておこう」

これで、委員長達とやっと合流出来るかも知れないな


「お願いします。僕の要件も以上です」


僕は皇帝に挨拶して、城を後にする


なんだか、どっと疲れた。

結局、魔王城への行き方はわからないし……早く部屋に帰って横になろう

そう思っていたのに、当然のように帰りも馬車に乗せられた

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