第69話 逃亡者、選択する

翌日、ミアが到着したので姫野さんに紹介する。


「昨日言ってた、ミアだよ。色々あって、僕を兄のように慕ってくれてるんだよ」


「ミアです。初めまして。お兄ちゃんに助けてもらって妹になりました」


「……。え?」

姫野さんが驚く


「ちょっと、ミア。打ち合わせと違うよ」


「だって、本当の事だよ」


「さっきは今だけお兄ちゃんって呼ばないって言ったよね?」


「隠す必要ないと思って」


「必要はなかったかもしれないけど、なんか恥ずかしかったんだよ」


「えっと、影宮君。結局どういう事なの?城にいたメイドの子よね?」


「城で暗殺されそうになってたから助けたんだよ。そしたら懐かれて、いつの間にか…………妹になってた」


「……深く聞かない事にするわ」

気を使われてしまった


「やましい事はしてないからね!」

これだけは伝えとかないといけない


「ミア、この人が姫野さん。覚えてるかわからないけど、一緒に召喚されたクラスメイトの1人だよ」


「ごめんなさい。覚えてない」


「話したこともなかったんだからしょうがないわよ」


「それでお兄ちゃん、これからどうするの?」


「迷ってるんだよね。魔王様に会う方法を探しに行きたいけど、このまま王国を放置するのもなぁ。兵士がやられて黙ってるとは思えないし」


「先に王国潰すの?お兄ちゃんならできると思うけど」

ミアが物騒な事を言い出した


「いやいや、怖い事言わないで。王国にも良い人はいたよ。カルロさんとか村の人にはお世話になったよね?僕は殺人鬼じゃないよ?」


「別に王国の人を皆殺しにしようなんて言ってないよ!」

よかった。僕の早とちりだったようだ。


「…それはわかってるけど、王国を潰すって事は、王国に住んでる人の生活を変えるってことだからね。やるなら慎重に進めないと」


「本当にわかってた?」

なんでこんなに鋭いんだろうか?


「モチロンダヨ」


「はぁ。」

ため息を吐かないでほしい


「あの、私も話に入れてくれないかな?」

姫野さんが恐る恐る手を挙げる


「ああ、うん。ごめんね」


「私こそ、なんか邪魔してごめんなさい」


姫野さんは何か勘違いしている気がする

「姫野さんが思ってるような事はないからね」


「わかってるから大丈夫よ」


こうやって言う人は大体わかってないと僕の経験則が言っている


「まぁ、いいや。姫野さん、王国に残ってるクラスメイトはどんな感じ?」


「…高村君に支配されてるわ。女の子は私みたいに部屋に閉じこもってる子が多いかな。逃げたいけど逃げる勇気がないの。男の子は何考えてるかわかんない。ごめんなさい」


「他のみんなは城にいるの?」


「変わってなければ城にいるのは17人よ」


「1人足らないね」


「篠塚君が、影宮君が処刑されてすぐに姿を消したわ」

篠塚君の職業はなんだったけな……確か忍者だったな


「何でいなくなったかはわかる?」


「みんなは逃げ出したって言ってたよ」


「まぁ、タイミング的にはそうか…忍者だし逃げようと思えば逃げれるだろうし」

篠塚君はあまり話した事ないし、よく知らないんだよなぁ。

休み時間も1人で本を読んでた記憶がある


「篠塚君って忍者なの?武道家だったはずだよ」

姫野さんに指摘されるけど、僕も記憶が確かではない。

記憶違いしてたかな?そもそも武道家なんていたかな?


「僕の記憶違いかもしれない。それで、姫野さんみたいに本当は逃げたいけど逃げなかった人はわかる?」


姫野さんから誰がそうなのか確認する


結構多いな。助けたいけど…穏便に全員を連れ出すのは難しいかな


「とりあえず、情報がもっと欲しいから委員長達と合流したい所だけど……どこにいるかわからないな。この街に向かってるのかな?」


「お兄ちゃん、結局どうするの?」


僕は迷う。王国に干渉しすぎるのは危険な気がする。周りを巻き込みかねない。

危険を承知で王国に乗り込むか

このまま街で委員長達を待つか

当初の予定通り帝都に向かうか


「委員長達が逃げたのはいつ?」


「2ヶ月くらい前かな」


「そうなると、順調に行けばもう街には着いてるはずだよね。街にいたら気づくと思うんだけどな」


「お兄ちゃんはその頃ダンジョンの攻略に行ってたよ。委員長さんの顔は私も覚えてるけど、あの頃はあまり家から出ないようにしてたから……」


「そうだった。どこか他の所に向けて、既に出発してる可能性もあるのか」


「順調に旅してるならそうなるね」


「だったら帝都に向かうのがいいのかな。一応、ミハイル様に僕を探している人がいたら、念話で伝えてもらえるようにお願いだけして」


「クラスメイトはいいの?」


「良くはないけど、もう少し辛抱してもらおう。可哀相とは思うけど、姫野さんにも言った通り、残る選択をしたのは彼女達だからね。準備が不十分のまま助けに行ったら、関係ない人を巻き込む事になる可能性が高いよ」


「お兄ちゃんがそれでいいなら私はどこでも付き合うよ」

選択が良かったのかはわからないけど、行き先は決めた。

また王国が攻めてくるかもしれないし、この街の戦力を上げる手伝いをしてから出発するか


「ねぇ、やっぱり影宮君ってその子と付き合ってるんでしょ?」

姫野さんは勝手にそんな事を言うけど、もちろん違う


「違うからね」


「隠さなくてもいいのに…」

やっぱり聞く耳をもたないらしい

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