第67話 逃亡者、罪を問う
「うぅーん」
姫野さんが目を覚ました
「え……動けない」
姫野さんは縛られたままクネクネしている
「ルイ、悪いんだけど2人にしてもらえるかな」
ルイと両親には席を外してもらう
「え、誰かいるの?」
「起きたみたいだね」
僕は姫野さんに声を掛ける
「え、…………影宮君?なんで生きてるの?」
「それは言えない」
「何があったの?私、村を襲いに来て、それから……」
「ここは姫野さんが襲おうとした村の中だよ。そして君は捕まってるんだ」
僕は簡単に状況を説明してあげる
「え……、川霧君達はどうなったの?」
「知らない方がいいと思うけど、知りたいなら教えてあげるよ」
「殺したの?」
「殺してはいないよ。詳しく知りたい?」
「……いえ、今は心の準備が出来てないわ」
「そう。それで姫野さんがなんでこんな事をしてるのかが不思議でね。どうするか迷ったからとりあえず拘束だけしたんだよ。」
「……そう。影宮君は私を助けてくれたわけではないのね」
「それは姫野さん次第かな。元気ないみたいだね?」
「この状況で元気があったらおかしいでしょ?」
「まあ、そうだけどね。なにか思うことがあるんじゃないかと思ってね」
「……」
「まあ、いいや。僕の質問に答えてくれるかな?それでどうするか決めるよ」
「……なにを知りたいの?」
「この村を襲う前に隣の村を襲ったんでしょ?そこの村にまだ人はいるの?」
「……兵士はいないわ。村人は……まだいると思う」
「本当に?」
「ほとんどの人は死んでしまったわ」
「姫野さんも村人を殺したのか?」
「……殺したわ」
隠しはしないのか…
「そっか、良心は痛まなかったの?」
「しょうがないじゃない、やらないと私の命が危なかったんだから」
「自分の命欲しさに無関係の人を殺したんだね」
「……そうよ。影宮君なら他人のために自分の命を差し出せるって言うの?」
「その時になってみないとわからないかな。でも事実として、僕は無関係の人を殺してはいないよ」
「どうやったかわからないけど、自分だけ逃げた影宮君には言われたく無いわ!」
「被害者みたいに言うけど、それを選んだのは姫野さんだよ。あの王国にいたら、こうなる可能性があることくらい少し考えればわかったでしょ?それに僕は何もしなかったわけじゃない。みんなを助けようとした結果、国王に目をつけられて処刑されたんだしね。何もせずに逃げてた姫野さんと同じにしないでほしいな」
「……だったらどうしたらよかったのよ!」
「姫野さんは委員長について行くと思ったんだけどね」
「どういう意味よ」
「委員長に城から逃げないか聞かれなかったの?」
「聞かれたわよ。私は断ったけど」
「そこが姫野さんの分岐点だね」
「…委員長は死んだわよ。」
予定通りに死んだのかな?
「死んだのは委員長だけ?」
「あんまり驚かないのね。委員長に協力してた人みんなよ。委員長を選んでたら私も死んでたわ」
「なんで死んだんだ?」
「無理をしてダンジョンの35層まで潜って魔物に喰われたわ」
委員長達はうまく脱出したようだね
「何笑ってるのよ!クラスメイトが死んだのよ。それも委員長が……。影宮君は知らないと思うけど、地球にいた時いじめられてた影宮君を助けようともしてくれてたのよ……。」
「知ってるよ。こっちの世界に来てからちゃんとお礼をした。心の余裕が大分出来て気づくことが出来たよ。本当はその時に気づければよかったけどね」
「だったらなんで笑ってるのよ」
「そんなの委員長が生きてるからに決まってるでしょ?」
「……何言ってるの?」
姫野さんは信じられないようだ
「そのままの意味だよ。ダンジョンの35層で死んだんでしょ?王国のダンジョンには入ってないから知らないけど帝国と同じくらいなら委員長達が死ぬとは思えないよ」
「どんなに危険かわかってないの?」
「王国のダンジョンの事は知らないよ。逆に姫野さんはレベルが低すぎる気がするんだけど、ダンジョンには潜ってなかったのか?」
「訓練からは逃げてたわ。……なんで私のレベルがわかるのよ!?」
「しまったね、口を滑らしたみたいだ。わかるからわかるんだよ。教えるつもりはないよ」
「それでなんで委員長達が無事ってわかるのよ?」
「死んだのは委員長と先生、後は小山くん達だろ?あとはわからないけど。委員長と小山くんの職業は知ってるかい?」
「治癒師と剣士でしょ?正直ハズレよ。クラスメイトの中でも弱いわ。なのにあんなに深くに潜って……」
「残念。それは嘘だよ。本当の職業はそんなチャチなもんじゃない。気づいてるかな、あのシキって神様、スキルをランダムで与えてなんていないよ」
「なんでそんな事わかるのよ?」
「水晶に治癒師や剣士と表示させたのは僕だからかな。神様の事を聞いてたなら、本人に聞いたからだから、もしかしたら神様の嘘かもしれないけどね」
「……」
思考が追いついてないな
「本当は委員長が聖女で小山くんは剣聖だよ。これがバレたら大事だったね」
「……」
「だから、イレギュラーが起きない限りは35層くらいで死ぬわけないんだよ」
「委員長達は本当に生きてるの?」
「さっきからそう言ってるんだけどね。会ってはないから絶対ではないけど」
「良かった…」
「なんで姫野さんは委員長について行かなかったの?」
「高村君に「王国から本当に逃げれると思ってるのか?影宮みたいに死にたいなら止めはしない」って言われて」
姫野さんは泣き出してしまった
また高村か…
委員長達は勧誘に失敗したんだな
「それで委員長の誘いを断ったのか……その結果が今だよ。まあ高村の所為とも言えるけど…」
「……」
「姫野さんはこれからどうしたい?」
「……もう、何もしたくない」
気持ちはわからなくはない。でも…
「罪もない人を殺しておいてそれはズルいと思うよ。それにまた逃げて後悔はしないかな?何もせずに死にたいってことなら僕が責任をもって殺してあげるよ」
「……やり直せるならやり直したい」
「それで?」
「……私に何が出来るかわからないわ。殺した人は何をしたって許してくれないだろうけど、なにかしたい」
「今度こそ王国と戦う意思はある?もう逃げないと誓うなら力を貸してあげるよ。でも次、敵として会ったら容赦はしないからよく考えて答えて欲しい」
「……私の贖罪に手を貸して下さい」
「わかった」
僕は姫野さんの拘束を解く
「……ありがとう」
「姫野さんには僕達と一緒に街まで行ってもらう。川霧達と兵士も連れてね。そこの領主様と冒険者のクランリーダーを紹介するから、自分に出来る事を考えてね」
「わかったわ。川霧君達がどうなったのか聞いてもいいかな?私の答え次第では同じようにしてたんでしょ?」
なにか勘違いしているようだ
「自分で見てきた方がいいよ。ただ、姫野さんにあそこまでするつもりはなかったからね。先に川霧が姫野さんに無理矢理村人を殺させたのは聞いていたから」
「そうなのね」
「でも、罪を償うつもりがないならそのまま他の兵士達同様に捕まえて貰うつもりだったよ」
「そっか。見てきて良いかしら」
「後で行くからその時に一緒に行こうか」
「逃げたりしないわよ?」
姫野さんはもう少し頭を使ったほうがいいと思う
「そんな心配はしてないよ。この村での姫野さんの立場は捕虜だからね」
「ごめんなさい」
僕は部屋から出てルカ達を呼ぶ
「ゴメン、待たせたね。それでどうするか決まった?」
「…そっちの女の人は大丈夫なんですか?」
ルカは姫野さんが気になるようだ
「うん、心配ないよ。元々、悪い人じゃないからね。それで村長はなんて?」
「ハイトさんが言うなら大丈夫ですね。村長は隣村の人を迎えに行ってから移民したいそうです。村を捨てるのは残念そうでしたが」
「わかった。隣村には僕が行って伝えてくるよ。ここまで来るのに馬車で数時間は掛かるから、街への出発は明日かな。それまでに街からの迎えが来るといいけど」
「街から迎えが来るんですか?」
「領主のミハイル様に念話でお願いしたからね。驚いてたけどきてくれるって」
「村の人に今日のうちに準備終わらせておくように言っておきます」
「うん、お願いね」
「姫野さん、僕は少しの間いなくなるけど、この部屋から出ないようにね」
「わかってるわ」
大丈夫だろうけど一応保険はかけておくか
「ルカ、何かあった時のために武器をここに置いておくからね。」
僕は部屋の外に村正を置いていく
そして念話でルカの家族には呪われてるから何があっても絶対に触らないように伝える
これで姫野さんが暴走しようとしてもこの呪われた武器を手にするだろう
「それじゃあ行ってくるね」
僕は部屋を出て姫野さんからは隠れて転移をする
隣村はかなり悲惨な状況だった。
僕も当然警戒されたけど、生き残った人を杖で回復させながら説明していく
そして希望者は明日までにルカ達の住む村まで来るように伝えて転移で戻ってきた
村正は僕が置いた場所にそのまま置いてあった。
良かった、変な気は起こさなかったようだね
この日はルカの家に泊めてもらい、翌日の昼前に街からの迎えが来たので街に向かう事になった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます