2章 王国 処刑編

第13話逃亡者、偽装する

国王と思わしき人のそばには髭を生やした燕尾服を着た男性と若いドレスを着た女性、後は鎧を着た兵士が2人。


宰相と王女とかかな。あとは近衛兵。


多分ここは王様に謁見する為の部屋だろう。僕達の横には兵士が横一列に並んでいる。


周りをキョロキョロと見渡していると


「我が国オーラスへよく来てくれた、勇者諸君。いきなりの事で困惑しているだろうがまずは話を聞いて欲しい」


僕は少し心配していたが、兵士に囲まれた状態で騒ぎ出すバカは流石にいなかった。


「我が国は長年にわたる魔王による侵攻により衰退の一途を辿っている。このままでは民が蹂躙されるのも時間の問題だ。そこで秘術である勇者召喚の儀を執り行うことになり、其方らに来てもらったわけだ」


周りがザワめきだす。


「其方らには民を救うべく、魔王を倒して欲しい。その為に必要なサポートは我が国が全力で行う」


僕はなんとも胡散臭い話だと思った。


「私、戦うことなんて出来ない…。家に帰りたい」


クラスの女子の数人が泣き出してしまった。

周りも困惑している


「心配しなくても大丈夫だ。召喚された勇者には強力なスキルと職業を得ると文献で伝えられておる。魔王を倒せば元の世界に帰る事も出来る。一刻でも早く強くなるためにも順番にこの水晶に手を当ててみるのだ。それで其方らのステータスがわかる」


魔王を倒せば帰れる…?

本当か?女神様は地球に戻ってきた人は今までいないって言ってたよな…


国王は僕達に水晶に触るように言うけど…ステータスオープンって唱えればステータス確認できるよな……「ステータスオープン」僕は小声で唱える

うん、やっぱり表示される。


あの水晶はなんだ?


僕は[鑑定]で水晶を鑑定する


鑑定の水晶

触れている相手の職業とスキルを水晶に表示する


……ステータス確認で合ってるか。ステータスオープンで見れることを知らないのか?いやそんなはずないよな……あぁそうか、ステータスオープンだと本人と許可した相手しか見ることが出来ないからな。

僕達の力を見たいんだな。


…この国を信用するのは危険かも知れない。


今度はある程度聞こえる声で「ステータスオープン!」と言う

「わっ!試しに言ってみたらなんか出た。これが僕のステータスかな……」


演技が下手すぎたかも知れない。

国王がめっちゃ睨んでる。


でもこれでわざわざ水晶に触らなくてもステータスが確認できる事はみんなに伝わっただろう。それでも水晶を触りたいなら止めはしない。


「ステータスオープン!おぉ、俺のステータスも出た。」


やっぱりというかすぐに試したのは小山だった。


「ステータスが出たのか?俺からは見えないぞ?」


小山の友達が話しかけている。


「これ俺にしか見えてないんだな…。お前も唱えてみろよ」


「「ステータスオープン!」」


周りでみんな唱え出す。


よかったよかった。とりあえず先手を取られずに済んだかな。

周りを見ると、委員長と小山、桜先生は難しい顔をしている。多分、水晶を触らせようとした事について僕と同じように不信感を抱いたのだろう。


さて、王様はどう出るのか…


「…ステータスの確認が出来たようだね?ただ、我たちにも見せてもらえないと其方達を充分にサポートする事が出来ないんだ。水晶を使って我にも其方達の力を見せて欲しい」


直球できたな。

まぁ、水晶自体は[鑑定]用で間違いないから嘘は言ってないしな。

それに見せて欲しいといいながら周りは兵士で囲っている。拒否権はないか…


「では其方からこちらに来てくれるか?」


王様は近くにいた小山に声を掛ける。


小山が僕に目配せをしてくる。多分小山は僕が何か知っているのではと疑っているのだろう。鋭いな。

僕は目を伏せて「行くしかない」と伝える。


小山は水晶に手を当てる。

そして、「えっ!」っと声が漏れる。


水晶には


職業[剣士]

スキル[剣術Lv:3]


と表示されている。


「どうかしたのか?」


国王が小山に声を掛けるが


「なんでもありません」


小山はそう答えた。


「剣士か…。剣術がいきなりLv:3なのは高いな。では次の者こちらへ」


少し落胆した様子の王様はそう言うと次の人に代わるように言う。


小山が驚いた理由は実際のステータスと表示が違ったからだ。

本来の小山のステータスはこうだ。


職業[剣聖]

スキル[剣術Lv:10]


これを見られたら面倒なことになるのは目に見えている。


小山が僕の方に歩いてきて、小声で聞かれる。


「影宮君何かした?1人だけあの空間に来るのも遅かったし何か知ってるの?」


目立つのはマズイと思ってる僕は簡単に答えて後で説明することにする。


「うん、小山君のステータスを僕のスキルで偽装させてもらった。小山君も感じているみたいだったから言うけど、あの王様はなんか怪しい。剣聖なんて見られたら面倒なことになると思って勝手だけど偽装させてもらったよ。この国については僕も何も知らないよ。遅れてきた理由は後で話すよ。小山君の友達の2人のステータスも偽装しておくから小山君から伝えといて。」


「…ありがとう。自分のステータスを見た時は喜んだけど、あの国王に知られるのはマズイ気がしてたから助かったよ。2人にも伝えとく。……あと、今までイジメられてたのに気づいてたのに助けてあげられなくてゴメン。助けたら今度は僕がイジメられるんじゃないかって怖かったんだ。」


謝られるとは思っていなかった僕は一瞬思考が停止した。


「小山君が悪いわけじゃないよ。あの時は教室中がみんな敵にみえてたけど、いろいろあって今はちゃんと区別出来てるから。それに今だからわかるけど、僕が手を取らなかっただけで小山君は委員長達と一緒に僕を助けようとしてくれてたよね?」


これは本心だ。高村達は今でも許してはいないが他のクラスメイトに対する嫌悪感は大分薄れてきている。それに小山君達は手を差し伸べてくれていた。感謝こそすれ敵視するなんて論外だ。


「うん。僕は委員長に協力してたくらいだからあんまり役にはたってなかったけどね。……影宮君、なんだか変わったね。前よりもスッキリした顔してるよ」


「そうかな。ありがとう」


僕は照れながら小山君と別れて委員長の元に向かう。


「委員長、ちょっといいかな?」


「何?影宮君」


「委員長は国王の事どう思う?」


「正直、怪しいと思う。信用しちゃうのは危ないと思う」


やっぱり委員長も感じてるみたいだ。


「僕もそう思う。それで委員長のスキルなんだけど…」


僕がスキルの事をどう伝えようか悩んでいると


「私もその事で悩んでいたの。多分私のスキルを知られるのはよくないと思うの。でもこの状況で見せないなんて出来ないし…」


さすが委員長だ。話が早い。


「委員長のスキルって治癒魔法Lv:10でしょ。職業は聖女」


「なんで知ってるの?」


「僕のスキルで見たんだ。委員長と小山君達3人と桜先生は神様がいいスキルを手に入れたって言ってたから勝手にだけど見させてもらったんだ。」


「そうなんだ。それでこれからどうしよう?」


「うん。僕のスキルで委員長のスキルを[治癒魔法Lv:3 ]職業を[治癒師]に偽装するよ。そしたら水晶にもそう表示されるから本当のステータスはバレないよ。さっき小山君が水晶を触って驚いてたでしょ?あの時は説明なしで小山君が触ったから自分のステータスと違う表示にビックリしてたんだよ。桜先生にも偽装の事、委員長から伝えといてもらっていいかな?」


「わかったわ。影宮君はそんな事が出来るんだね。」


「内緒にしといてね。全員は見れてないけどヤバいステータスを持ってるのは委員長と小山君達と桜先生だけだと神様の反応的に思うから5人のステータスは偽装したよ。」


「わかったわ。内緒にしとく。」


ここまではただの連絡。僕的にはここからが本題だ


「委員長、今言う事じゃないと思うけどイジメられてた僕を助けようとしてくれてたよね?ありがとう。せっかく手を差し伸べてくれてたのに掴まなくてゴメン」


委員長は困惑した顔をしている


「助けてあげられなくてごめんね。」


逆に謝られてしまった


「さっき小山君にも言ったんだけど、委員長達が謝ることは何もないよ。あの時の僕が何も信じる事が出来なかっただけ。委員長が気にする事じゃないよ。それに今は感謝の気持ちしかないんだ。」


「そうね。影宮君がいい顔をする様になって良かったわ。」


委員長にも顔のことを言われる。あの頃は相当ヤバい顔をしていたのだろう。


「影宮君、じゃあ後はよろしくね。」


そう言って委員長は水晶を触りに行った。


ちゃんとお礼が言えて良かった。心の荷が一つ降りた気がした。

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