第3話いじめられっ子、美女に会う

お母さんと並んで歩いて家に帰る。

ふと僕の為に泣いてくれたお母さんを見て、異世界に行ってもいいと少しでも思ってしまった自分が恥ずかしくなった。


自分の帰る場所はここにあるじゃないか。


「お母さん、いつもありがとう」


普段は恥ずかしくて言えないけど、自然と口から漏れていた。


「えっ、何か言った?」


「何でもないよ」


やっぱり面と向かって言うのは恥ずかしい。


「それよりも、家に着いたら話したい事があるんだ」


「無理しなくていいのよ」


何か察してくれているみたいだ。


「うん。でも聞いて欲しいんだ」


玄関を開けたら心配そうな顔でお父さんが帰りを待っていた。


「ただいま」


「あぁ、お帰り」


「お父さんにも聞いてもらいたいことがあるんだ」


リビングに家族3人集まる。


中学生になって以降、家族3人で会話をする事は減っていた気がする。


僕は両親に今日起きた事を正直に話した。

いじめられていた事も含めて包み隠さず…


両親は黙って僕の話を聞いてくれた。


「よく話してくれた」

「今まで一人で耐えてたんだね」


「信じてくれるの?」


「子供の言うことを信じないなんて親じゃないわ」


「うん…ありがとう」


転移から逃れて本当に良かった。

不謹慎だとも思うけど、高村達からもうイジメられる事も無い。

僕は今、幸せを感じている。

神様に感謝しよう。


「聞いてくれてありがとう」と再度お礼を言って今日はもう寝る事にした。


朝起きて朝食を食べる為に台所に行くと、「今日学校は臨時休校になった」とお母さんに言われた。


昨日僕が警察署に連れて行かれている間に決まってたみたい。


朝ご飯を食べながらテレビをつけると、どこの局も学校での集団失踪のニュースばかりやっていた。


拉致だの神隠しだの騒ぎ立てているが、情報統制が敷かれているのか学校名や行方不明者の名前は報道されていなかった。


ネットでは学校が特定されていたが、僕だけが転移してない事については書かれていなかったのでとりあえずホッとする。


「やっぱり夢じゃなかったんだな」


臨時休校中は家から出ないように学校から言われている様なので、部屋に戻って昨日のことがなんだったのか考えていると気になることを思いだした。


「そういえば、称号を獲得した様なことが聞こえた様な…ひょっとして転移してないのに能力だけ貰ったパターンか?」


ラノベの主人公になったみたいでワクワクしてきた。


「だったら、ステータスオープン!」


何も起こらない


「…プロパティ!」


何も起こらない


「聞き間違いだったか?それか鑑定用の水晶見たいなのが必要なパターンのやつかな」


独り言をいいながら色々と試していると、


ピンポーン!


チャイムが鳴った


昨日の今日だし警察かな、マスコミとかだったら嫌だなぁと思ってると部屋のドアがノックされて


「えらい美人の女の人があなたに会いに来たって言ってるけど入れていいよね?」


何か違和感を感じながらドアの隙間から覗いてみると、確かに驚くほどの美人が玄関前に立っていた。


なぜだろう?待たせている事が、とても悪いことをしているような気がする。


すぐにでも中に入って話をしないといけない。そう思って部屋に招こうとすると、


ブルっ!


急に今まで感じた事のない様な悪寒がした。


このまま部屋にあげてしまったら何故か後々後悔する気がする。


あらためて女性を見ると確かに美人だが、そこに立っていると思うだけでさっきみたいに待たせている事に対して罪悪感は感じない。

何か思考を操作されていた?

いつもならそんな事は思わないが昨日のことを考えると何かされていたと思う方が合っている気がする。


疑っている事が気づかれたのか、

「はぁ、わかったわ。本当は無理にでも連れて行ってから説明するつもりだったけどやめるわ」


女性は手を挙げてヒラヒラと振りながらそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る