第14話江戸城陥落

多くの場合、城攻めをする際は城下を焼き払い遮蔽物などを無くしてから城攻めをする事が多い。

これは城下町に潜んだ敵兵に奇襲されるのを防ぐ為でもあるし、もし城を攻め落とせなくても相手に損害を与える事が出来るからだ。

だけど今回は今の所、豊嶋軍に城下への放火及び乱暴狼藉は禁止している。

城と城下町の間に川があり距離が離れているという事と、江戸城を攻め落とした後に復興するのにお金がかかるからだ。

城下に住む人の恨みも買いたくないし。


豊嶋軍が城下を抜けて江戸城に近づくと、門が開き、平塚基守さんと志村信頼さんが笑顔で味方を出迎える。

見事に奇襲は成功したみたいだ。


平塚基守さんと志村信頼さんに依頼した奇襲とは、深夜のうちに江戸城に侵入し城内を制圧する事、ただし城の外には敵襲を受けていると分からないように。

最初、泰経さんに言った時は絶対にそのような事は出来ないとの事だったけど、自分が考えた作戦は、深夜堂々と江戸城に向かい味方を装って入城し直後城内を制圧するという作戦だった。

そして堂々と入城する為に、平塚基守さんと志村信頼さんは指示書に従って太田道灌の主君である扇谷上杉家の一門衆である上杉朝昌の名を使い、道灌から豊嶋軍が江戸城を奇襲しようとしている為、城の守りとして帰城したと言って門を開けさせ入城しその後、道灌の客将で留守居を任されていた木戸孝範と兵を捕え、逃げ帰って来る道灌軍を待ち構えていた。


そして這う這うの体で江戸城に戻った道灌軍を城内に入れ、太田道灌を始め主要な武将を捕え人質として兵の抵抗を抑え豊嶋軍が到着するのを待っていたのだった。


「まさか本当に成功するとは…」

恐らく失敗して最悪の場合、平塚基守さんと志村信頼さんが討ち死にするかもと思っていた泰経さんは、いまだに信じられないと言った顔で江戸城を見渡している。


「まあ江戸城に残ってた兵も少なかったみたいだし、深夜だから顔の見分けもつかないだろうしね…。 そう何度も使える手じゃないけど、まさか兵の1/4を割き居城を奇襲されるとは誰も思わないでしょ」

「確かに、我らの兵が多ければ警戒もしたでしょうが、道灌は我らの倍、4000の兵を率いてましたし夢にも思わなかったでしょうな」


馬上で話をしていると、奇襲作戦の指揮を執った平塚基守さんと志村信頼さんがやって来て、捕えた人の書かれた紙を渡してくれた。

「基守さん、信頼さん、ご苦労様でした」

「いえ、我らは指示書通りにしただけですべては宗麟様の策によるもの、我々も驚いております。 とは言え我らが豊嶋家の者だと気づいた兵と城内で戦になりそうになりましたが、今ここで争えば道灌を始め諸将の命が無いと言ったら収まりました。 これも指示書通り、流石でございます」


「そんな事ないですよ、指示書はあってもその場で的確な咄嗟の状況判断が出来なければ成功はしなかったでしょうから、お2人の大手柄です。 それで捕えた人ですけど、太田道灌及、上杉朝昌、三浦高救、千葉自胤、後は太田家家臣の、斎藤元胤、佐藤五郎兵衛、桂縫殿助、樋口兼信、日暮里玄蕃…、そして客将の木戸孝範ってあるけど、吉良成高、大森実頼は江戸城に来なかったの?」

「はい、城内に入った足軽や地侍などは別の場所に水と食事を用意していると言って引き離したうえで、名のある者を捕えましたが吉良と大森はおりませんでした」


リスト化された紙を見ながら何処へ消えたのか考えて居ると泰経さんが口を開く。

「宗麟様、恐らく逃げる際、江戸城ではなく各々の城へ逃げ帰ったものと…」

「居城に帰ったてこと? 確か吉良成高は世田谷城、大森実頼は小田原城だよね…。 世田谷はともかく小田原は遠くない?」


「確かに遠いですが、相模は扇谷上杉家の勢力が強いので恐らく無事に城へ戻れるかと…」

「そっか相模は扇谷上杉家の勢力圏だったね…。 まあ小田原城はまだどうでもいいし、世田谷城はそのうち攻め落とすよていだから。 とりあえず今は当初の目標達成という事で、太田道灌及、上杉朝昌、三浦高救、千葉自胤の4人に加え道灌の家臣と会って話をしよう」


「かしこまりました、ではそのように手配致します」

「うん、お願いします、ただ敗残の将とは言え丁重に扱ってくださいね。 出来れば味方に取り込みたいし、取り込めなくても上杉家との交渉材料やらその他の事で役に立ってもらうから予定だから」


去り際に泰経さんがギョッとした顔をしたけど、なんか変な事言った?

道灌取り込めば芋づる式に味方増える可能性があるし、上杉朝昌、三浦高救は扇谷上杉の一門だし、千葉自胤は元々、千葉県北部…、じゃなくて下総を収める千葉氏の直系で多くの一族を殺されて下総を追い出されて今は赤塚城に居るだけだからいずれ下総を攻める際の大義名分になるんだよね。

ただ千葉自胤に関しては兄の千葉実胤が石浜城に居るからそっちを調略すれば良いから味方に引き入れられなくても問題は無いんだけど…。


そう思いつつ、泰経さんの家臣に案内され江戸城の主殿に向かい上座に用意された床几に腰を掛ける。

上座に自分、上座右斜め前に泰経さん、上座左斜め前に泰明さん、そして一段下がり左右に一門衆が座り、下座の方に太田道灌を含め捕えられた将が平伏している。

どうやら武器の類は全て取り上げられ腰に軍扇を刺しているだけで周囲を槍を持った武者に囲まれ恐らく抵抗は無駄と諦めていると思われる。

一部は顔が真っ青になってるし…。


「面を上げられよ」

泰経さんがそう声をかけると、平伏していた太田道灌を始め上杉朝昌、三浦高救、千葉自胤、そして道灌の家臣が顔を上げる。


「どうも、鳳凰院 宗麟です。 初めましてって言っても道灌さんとは一度お会いしてますね」

この時代の作法なんて全く分からないから非礼だろうと何だろうと思い通りに声をかける。

うん、作法なんて知らん!! ネットで調べたけどこの時代の作法なんて載ってなかったし!!


「扇谷上杉家の家宰、武蔵守護代、太田備中守道灌でございます。 この度は武運拙く敗れは致しましたが、我が首をもって家臣一同の命を安堵頂きたく…」

道灌さんがそう言い再度頭を下げる。

やっぱり道灌さんも額に角が生えてる。

やっぱり異世界なんだな~。


しみじみと額の角を眺めつつ、頭を下げたままの道灌さんに回りくどい話はせずストレートに提案をする。

「あ~、スイマセン、首は要らないんで自分の家臣となるか、このまま人質として自分に利用されるか選んでください」


突然の2択に困惑する道灌とその他一同。 まあそうだよね…、普通なら自刃して果てる所を捕えられたうえ、命は要らないから家臣になるか人質として交渉の道具になるか選べって、この時代の人の考えは分からないけど困るよね…。


「恐れながら某は扇谷上杉家の家宰、家臣になれとは扇谷上杉家を裏切れと?」

「まあそうなるよね。 ただ史実だと後9年後にはその主家の当主である定正に殺されるから裏切っても問題無くない?」


「定正様に? 何故…、それに史実とは、夢のお告げであった同じ歴史を歩む異なる世界から遣わされるとあったのは誠の事だったので…、いやだが…」

うん、混乱してる…。

そして今の言葉で、泰経さん達が夢で見たお告げとは若干違うみたいだけど、道灌さん達も夢でお告げを受けている事が分かった。


「まあ道灌さんは家宰としての立場があるでしょうから即決できないですよね、それに上杉朝昌さん、三浦高救さんも扇谷上杉家当主である上杉定正さんの弟さんだし…。 千葉自胤さんはどうします? このまま下総を取り返すことなく余生を送りますか?」


即答を求められるも立場上答えに困っている3人と異なり生まれ育った下総を追われ、いずれは下総に返り咲く事を夢見ていた千葉さんだけは目を輝かせこちらを見ている。


「恐れながら、下総を取り返して頂けると?」

「まあいずれは日本を統一しないといけないし、武蔵から近い下総は攻略するでしょ。 とは言え今千葉家の当主を自認してる人が戦う前に傘下に加わるって言って来たら話が変わって来るけど…」

そう言うと千葉さんはそれは無いと胸を張っていい、即座に家臣に加わると表明した。

石浜城にお兄さんである千葉実胤さんが居るんだけど、説得するとも言わないとこみると恐らく兄では無く自分が千葉家当主になろうと思ってるんだろうな…。


まあ自分としては兄だろうと弟だろうと、優秀な人なら問題ないし、優秀じゃなくても飾りにする事で大義名分を得られるからどっちでも良いんだけど。


「恐れながら、宗麟様、我ら3名、この場で直ぐにお答えは出来ません、しばしの猶予を…」

道灌さんが代表してそう言い平伏すると、上杉朝昌さん、三浦高救さんもそれにならって平伏すした。


「まあ、とりあえず明日までに答えを出してください。 一応お伝えしておきますが、史実では暫くしたら山内、扇谷、両上杉家で争いが起きて扇谷上杉家は衰退するうえ、関東は更に戦乱が広がり、そこに伊勢新九郎が勢力を伸ばし100年後には彼の一族が関東の大半を収めて上杉家は関東から駆逐されてますから、その辺も検討する際の材料としてください」


そう言い、一応、元の世界で伝わっている3人今後と上杉家、太田家、三浦家の行く末をメモした紙を渡して、用意した部屋に行ってもらう。

用意した部屋って言っても隣り同士だし、3人で話し合う事も特に禁止してないから明日までに3人で話し合って良い結論を出してくれると良いんだけど。


そして主殿に千葉さんだけが残って何か言いたそうだったので、とりあえず無視をし、赤塚城とその所領は没収し、後で替わりの領地を見繕う旨を伝え退出していただいた。


それにしても赤塚城とその所領没収って言った時の顔、凄く絶望に満ちた顔してたな…。

でも後で替わりの領地を与えるって言った時の顔は満面の笑みを浮かべてた…落差が凄い。

多分あれなら自分が居た日本で顔芸やって生きていけそうな気がする。


それにしても千葉さんが真っ先に臣従してくれたので赤塚城を攻め取る手間も省けたし、助かった。

実際問題として、石神井城から赤塚城は目と鼻の先だから信頼できる豊嶋家の一門衆が守ってくれないと心配なんだよね。

今後の情勢によっては千葉さん裏切る可能性もあるし。


後は没収した赤塚城とその所領だけど…、赤塚さんに治めてもらおう!!!

昔はあの一帯も豊嶋家の所領で赤塚さんが治めてたみたいだし。


だけどそうなると論功行賞が難しいな。

一門衆の皆さんそれぞれ頑張って各自の役割をしっかり務めてたし。

勝ったら勝ったで色々とやる事も多いし思ってたより大変だ。


泰経さんに相談しよ…。


補足-----------------------------

※補足

太田道灌が築いた江戸城は現在の皇居辺りにがあったと言われていますが、当時はまだ埋め立てがされていなかった為に海が近く、近くを流れる平川(現神田川)は汽水域だったそうです。

その為、江戸城周辺で掘った井戸からは海水交じりの水が出たそうで、徳川家康も悩み、結果、玉川上水などが整備されたと言われています。

ただ太田道灌が江戸城を築城した頃は人口も少なく、真水に関してはそこまで問題では無かったようです。

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