第6話自分が倒したと信じてくれる人が居ました
酒を飲み、先程まで罵倒していた冒険者も木で出来たジョッキを片手にレッドホーングリズリーの死骸を遠巻きに見てる。
暫くすると奥から、ギルドマスターのバーレンさんが小走りで来て、レッドホーングリズリー見分を始めた。
「ハンズ、これをお前が倒したってのはホントか?」
「はい、急に襲われて喰われるかと思ったら目の前が真っ白になり、咄嗟に右手に持った剣を突き出したら運よく倒せました」
「運良くか、確かに剣が心臓を貫いてるな…」
そう言いながらバーレンさんはレッドホーングリズリーの死骸をくまなく見分する。
「おいおい! その熊、昨日俺達のパーティーが討伐した奴じゃないか!! 獲物を持ち去ったのはハンズお前だったのか!」
突然、後ろからそんな声が飛んできた。
振り向くと、日頃から自分を馬鹿して何かしら嫌がらせをするパーティで、どうやら自分達が倒した獲物だと主張し、実績と報酬を横取りしようと言った所みたいだ。
「どういう事だガムズ、これはお前たちが昨日討伐したものだと言うのか?」
「そうですよバーレンさん、俺達のパーティーで倒したやつを、怪我の回復とかしてる隙にこいつが奪って行ったんですよ、それをぬけぬけと、自分が倒しましたって、Fランクのくせに、ふてぶてしいにもほどがありますぜ」
そう言ってガムズは自分を突き飛ばし、この獲物は俺達の物だと言わんばかりにレッドホーングリズリーの死骸の前に立つ。
「ガムズ、お前たちはどうやってレッドホーングリズリーを討伐したんだ?」
「そ、それは、俺達のパーティーで囲んで、魔法攻撃や弓で削って弱った所を剣と槍ででトドメを刺したって感じですね。 まあ時間はかかりましたが俺達にとっては難しい狩では無かったですね」
そう言って胸を張りながらするガムズの説明を黙って聞いていたバーレンさんは、説明が一通り終わると静かにガムズに質問をする。
「ガムズ、虚偽報告、獲物の横取りは冒険者の間ではランク降格に値する大罪だと分かってるな? その上でもう一度聞くが、このレッドホーングリズリーはお前たちが倒した獲物か? よく見てから答えろ」
そう静かにバーレンさんがガムズに問うと、ガムズは、即答し自分達の獲物であり、自分が横取りした獲物だと再度主張する。
「そうか、ではガムズのパーティーはワンランク降格で今からDランクだ!」
バーレンさんはため息をついた後、立ち上がりガムズにそう告げ、今すぐガムズ達にギルドカードを出すように言う。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! なんで獲物を奪われた俺達が降格なんだよ、実績ある俺達よりこの万年Fランクのいう事を信じるって事か?」
「そうだ、ハンズの言っている事を信じると言ってるんだ」
「ふざけんなよ! 理由を説明しろよ! 納得できるわけがないだろう、こんなゴブリン相手でもてこずる奴がこんな大物を仕留められる訳ないだろ!」
「確かにハンズは、ゴブリン相手でもてこずる程弱いかもしれんが、お前たちの言ってる事よりは信用できる」
そういうバーレンさんの言葉に激昂をしたガムズはさらに食ってかかる。
「そんな、納得できる説明をしろよ!」
「納得できる説明か…。 それはこの魔物の状態だ、お前たちはパーティーで挑んで倒したと言っていたが、このレッドホーングリズリーには折れた剣が刺さっている以外に傷がない、魔法や弓でとも言っていたが、その痕跡すらない、これはどう説明するんだ?」
「そ、それは…」
バーレンさんの指摘にガムズが怯んでいると、更に追い打ちをかけるようにバーレンさんが指摘を続ける。
「それに昨日討伐し、横取りされたなんて噂は酒場には一切流れていないぞ? お前たちがレッドホーングリズリーを討伐したら周りに言いふらすだろう、そのうえ横取りが本当なら目の色を変えて犯人捜しをするだろう、それをせずに、なぜ酒場でダラダラしている、それが何よりの証拠だ」
そう言うとガムズは、顔を真っ赤にして黙り込む。
「ガムズ、ランク降格した冒険者証は受付で受け取れ、ハンズは薬草の代金を受け取ったら今日は帰って明日、このレッドホーングリズリーの買取金を受け取りに来い、今から査定するから今日中の支払いは無理だからな」
そう言って職員を呼び出し、レッドホーングリズリーを解体場に運ぶように指示を出したバーレンさんは、自分の肩を一度叩き、そのまま奥に行ってしまった。
う~ん、横取りはされなかったけど、これは絶対恨み買った感じだよな。
自分は一言も発してないけど、自爆してランク降格させられて、その怒りのはけ口は絶対自分に来るよな…。
さてどうしよう。
これは絶対に逆恨みされるパターンだよな…。
あとがき--------------------------------------
本日か23時から新作の「戦国時代の初期にタイムスリップ? いえ、ここは異世界らしく天下統一の為に召喚されたみたいです」を投稿いたします。
5月度は毎日更新しますのでお読み頂ければ幸いでございます。
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