第57話 技能取引者 セイン

身体全体が痛いし重い……


 アーサー様に『聖剣の担い手』を返し、エクスカリバーをエレインさんに返した俺は全身をすさまじい疲労に襲われ気を失ってしまったのだ。慣れない聖剣を使ったからだろうか? 身体能力を上げた代償なのかもしれない。やはり、いきなり過ぎた力を手に入れても、使いこなすことはできないという事だろう。



「うーん」

「あら、目が覚めたみたいね」



 俺が目を覚ますとベルがベットの前に座って本を読んでいた。起き上がろうとすると、筋肉痛に襲われる。やべえ、なんだよ。これ……



「ああ、エレインからの伝言で、聖剣の力で増した分の負担がきているからしばらくは治らないって言ってたわよ」

「なんだよそれ、聞いてないんだが……それより、あの後どうなった?」

「そうね、きになるわよね。とりあえずこれでも飲みながら話を聞きなさい。ポーションの蜂蜜入りよ。疲労回復に効くわ」

「ああ、いつもありがとう」



 俺はベルからもらったコップの中身を飲み干す。ドロッとしたポーションの感覚に蜂蜜の甘みがとても良い。昔に俺が冒険者を始めたばかりの頃にボロボロの状態でかえってきた時にもよく作ってくれてたっけ。



「あの後、混乱が落ち着いた後にアーサー様はあの後カリバーンを抜いてみせて、継承の儀式を終えたわ。しかも、自分が女性だって言う事を発表してね……会場は混乱に包まれたけど、騎士たちを指揮して、英雄まで見出したんですもの。皆認めてくれたらしいわよ。宿屋のお客さんたちも肯定的だったし、しばらくは混乱も続くでしょうけど、うまくいくんじゃないかしら」

「そうか……よかった……」

「全然よくないわよ!!」



 まだ色々と気になることはあるけれど、とりあえずは収まったようだ。俺が一息ついていると、ベルがなぜかこちらをじっと睨んできた。



「いったいどうしたんだ?」

「あんたは特に体がおかしいとかないのよね? 広場でなんか変な剣もったモードレットと戦っていたのをずっと見てたのよ!! 死んじゃうかとおもったじゃないの!!」

「ああ、特におかしいところはないぞ。でも、あそこは俺がああしなきゃダメだったんだ……」



 ベルやガレスちゃんを守るためにもさと言いたかったがそれを言えばベルは気にしてしまうだろう。だから俺は無茶したことを黙って叱られることにした。だけど、彼女の反応は俺が思っていたものとは全然違ったのだ。



「そう……よかった……」

「ベル……!?」



 彼女はふっと優しい笑みを浮かべると、俺の方に近づいてきてそっと俺を抱きしめた。胸の柔らかい感触と甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐる。



「意識を失って運ばれ来ちゃってさ、心配したのよ、バカセイン……」

「悪い……心配させたな……」

「あんたの事だから私たちがいるからって理由で頑張ったんでしょう? いっぱい心配させたんだからいっぱい安心させなさいよ」



 そういうと彼女はさらに強く抱きしめてきた。おれも抱き返す。どれくらいそうしていただろうか、乱暴にドアが開けられる音がする前に彼女がぱっと離れる。




「今セイン君の声が聞こえなかったかい? 意識をとりもどしたのか? あれ、ベルもセイン君も顔が赤くないかい?」



 やってきたのはエレインさんだ。どれだけの地獄耳だよ。と思いながらも心配してくれたことに感謝をする。ベルは平然とした顔で座っているが心なしか耳が赤い。た



「でも、よかった。じゃあ、ガレスちゃんも呼んでくるね」



 といって扉をでるエレインさんをみて俺は思う。俺が守りたかった日常は守れたのだと。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る