第55話  輝かしき王アーサー10

 すさまじい爆音と共に、先ほどまでいた部屋が崩壊してしまった。私はアーサーの傷口から鞘が外れないように細心の注意をしながら抱きかかえて走る。禍々しい気配がしたから急いで部屋から出たのだが、正解だったようだ。

 セイン君は大丈夫だろうか? エクスカリバーを渡しているし、聞いた話だとクラレントは心を糧にする武器だ。モードレットの憎しみがどれほどかもわからないが、さきほどの一撃でそろそろ力も失われるだろう。



「アーサー、大丈夫かい? どこか休むのにいいところはないかな?」

「助かりました、エレイン。そうですね……そろそろ傷もマシにはなってきましたし……」

「アーサー様、エレイン様!! ご無事でしたか!!」



 私たちがどこかに避難しようとしたタイミングで、軽装の女騎士がやってきた。彼女は治療班の証明である紋章を肩につけている。彼女に案内してもらい、治療してもらうのがベストなのだが、アーサーが女性という事がばれてしまうのはまだまずいだろう。自分から言うのと、他人にばれるのでは受ける印象が違うのだから。



「エレイン……構いません。彼女をこちらに……」

「いいのかい? すまない、今手を離せないんだ。こちらに来てもらえるかな?」

「はい、わかりました」



 そう言うと彼女は駆け足でやってきた。私がアーサーの胸元を隠そうとするが彼女は力弱くだが、それを拒絶した。一体何を考えているのだろう?



「これは……ひどいですね。生きているのが不思議なほどの出血量です」

「ああ、それはこの聖剣の鞘の力でね、この状態で悪いが治療はできるかい?」



 流石は治療班だからだろうか、この女騎士はアーサーが女性だという事も気にせずに傷口の感想を言った。私が少し感心していると苦しそうにアーサーが口を開く。



「とりあえず、血は止まっているのでポーションで体力をつけたほうがいいですね、これをお飲みください」

「ありがとうございます……命の恩人である君の事は覚えておきだいのですが、お名前を教えていただけますか?」

「はい、私はリールと申します。半年前から騎士団でお仕事をさせていただいています。アーサー様のお役に立てて光栄です」



 そう言って彼女はお辞儀をすると、ポーションらしきものが入った瓶の口を開け、アーサーに飲ませようとする。私が鞘を抑えながら眺めていると腕が引っ張られた。これは緊急時の合図だ。

 私はアーサーから鞘が離れないようにしたまま、リールと名乗った少女を蹴り上げる。


「かはっ……なんで……」

「リールはね、アンデットの襲撃で先日死んだんですよ。花が好きで、治癒スキルを持っていた、人の役に立ちたいと騎士に志願したいい子でした。新人だからって私が覚えていなかったと思いましたか?」



 アーサーからの合図は敵に奇襲された時のものだった。私は半信半疑で攻撃をしたのだが、正解だったようだ。現に割れた瓶からはすさまじい悪臭がする。あきらかに体に良くない液体だろう。これがアーサーの口に入ったらどうなっていたことか。


「おおかた、私を殺して、アンデットにでもするつもりだったのでしょうか? 残念でしたね。エレイン、傷はふさがりました。私はもう大丈夫です、彼女を拘束してください」

「だが……」

「罠にかかった間抜けも捕まえましたし、そろそろ、混乱をしているであろう民衆に元気な姿をみせなけれいけませんからね。新しい女王は襲撃者なんかに負けるわけにはいかないんですよ」



 そういってアーサーは気丈に笑って立ち上がった。


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