第37話 ガレスちゃんと幽霊屋敷

「セインさーん、聞いてください。ついにもう少しで、昇進クエストが受けれそうなんですよ!!」



 俺が今日の店じまいをした後、ヴィヴィアンさんから譲ってもらったスキルを活かすために投げナイフの練習をしていると、ガレスちゃんが嬉しそうに報告をしてきてくれた。彼女はあれから順調に槍のスキルを磨いて、クエストをこなしていったのだ。そして、ついに見習いであるEランクを卒業できるところまで来たらしい。



「さすがだな、ガレスちゃん。毎日頑張ってたもんなぁ……」

「ありがとうございます、セインさんとエレインさんのおかげですよ。二人が特訓に付き合ってくれたからなのと、冒険者に関する知識を教えてくれたのも大きかったです。この前だって臨時パーティーでゴブリン達の巣を一個つぶすことができて、それが評価されたんです」



 俺の言葉にガレスちゃんはちょっと得意げに笑った。ゴブリン退治は初心者冒険者達の最初に壁とも言われている。これまではフィールドで何匹かの群れている魔物を狩るだけだったのが、相手のテリトリーである巣に入り、視界の悪い中戦うのだ。

 そして、ゴブリン達は力こそ弱い者のある程度の知恵も周り作戦も考えてくる。これらのいくつかが重なって初心者の壁となるのである。逆を言えばこれに対応できるようならば初心者冒険者は卒業となるのだ。



「これなら昇進クエストも大丈夫だな」

「ところがそうはいかないんですよ……」



 俺の言葉に先ほどまでの嬉しそうな笑顔が嘘であるかのようにへこむガレスちゃん。一体どうしたのだろうか? 俺が目でうながすと彼女は恥ずかしそうに言った。



「その……昇進試験はアンデット系の魔物の巣なんですが……どうもそういう系の魔物が苦手でして……」

「あー、女子は苦手だよな……あいつら臭うもんな……」



 アンデット系と言えば有名どころが白骨死体の魔物スケルトンや、腐肉のついた魔物ゾンビだろう、こいつらは腐臭もやばいため女子からは嫌われ者である。というか俺だっていやだよ。臭いもん。



「いえ、そっちは大丈夫なんですが、どうもレイスが怖くて……」

「そっちかー……」



 レイス、それは実態を持たない魔物であり人の魂とも言われている。実態を持たないと言えば強そうだが、武器に聖水をぶっかけておけば攻撃は通るので実際そこまで厄介ではない。だが、その外見と、心臓をわしずかみにするような絶叫に恐怖をする人は少なくない。



「でも、このままじゃあいけないと思ってたんでちょうどいいかなとも思うんですよね。ダンジョンとかこもったらいつレイスに出くわすかわかりませんし……」

「まあ、冒険者ギルドの配る魔物の分布図も完璧じゃないし、『死霊使い』のスキルを持った人間が妨害してくる可能性もあるもんな……」

「それでですね……セインさんにお願いがあるのですが……」



 そう言いながら俺は、元パーティーメンバーの魔術師を思い出す。そういえば、モードレットたちと一緒に襲撃にはこなかったな……。彼女はモードレットと仲が良いと思っていたのだが……

 それはさておきだ、ガレスちゃんが歯切れ悪そうにもじもじとしている。一体どうしたというのだろうか? 俺は疑問に思いながらも先を促す。



「依頼の報酬は全てセインさんに渡します。だから私がアンデット系討伐クエストを受けるのに付き合ってはもらえないでしょうか? 知らない方におねがいするのには抵抗がありますし、セインさんに特訓の成果を見せたいんです」

「なるほど……なら一個だけ条件があるけどいいか?」

「なんでしょうか……その……エッチなことじゃなければ……」

「待って、俺を何だと思ってるんだよ!?」

「冗談です、えへへ」



 俺はいったいどんな人間だと思われているのだろうか? まあいい、俺は彼女へのお願いを告げる。これは俺にとってはとても大事な事だ。



「商売も結構軌道に乗ってきたからな。そろそろ新人冒険者達にもスキルを売ろうと思ってさ、だから昇級クエストを合格したら俺のお店の事を宣伝してくれないか?」

「それくらいならお安い御用です!! よろしくお願いいたします」



 そうして俺達は一緒に依頼を受けることになったのだ

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