第20話 赤き看板娘ベル7
石化病とはゴルゴーンたちの間で百人に一人ほどの割合でかかる不治の病らしい。それは彼女らのユニークスキル『石化の魔眼』の力が強くなりすぎて、制御できなくなってしまうそうだ。石化が目から徐々に体を侵食していき最終的には石像になる。
「幸いにも死に至るまでは時間があります。だから色々準備できるんですよ。心も身の回りも……」
そう言って彼女は……フリントさんは優しい笑みを浮かべながら彼女に身を預けて寝ている幼女ゴルゴーンの頭を撫でる。おそらくフリントさんの死後彼女を面倒を見る相手はみつかっているのだろう。
だけど、彼女の言葉が嘘だという事を俺は知っている。死に至るまで時間があるから準備ができている? そんなはずはないだろう。ベルの両親は流行り病で死んだ。徐々に弱っていく両親を見て、ベルも両親も気丈に接していた。だけど、ベルは両親の部屋にでるといつも辛そうな顔をしていて、俺に弱音を吐くのだった。そして、彼女の両親も、ベルの事を頼む。あの子を支えてやってくれと俺に頼んでいた。大切な人がさ、死ぬのに準備何てできないんだよ。
「フリントさん、俺のスキルならその病を治せるかもしれません。もしよかったら俺にスキルをみせてもらえないでしょうか?」
「でも……この病はどんな薬でも法術でも治せなかったんですよ? それに私を治してあなたになんの得が……」
「もちろん無料はないです。あなたはユニークスキルを失うことになりますし、お金ももらいます。そして俺はあなたたちゴルゴーン族の信頼を手に入れることができる」
フリントさんの目が泳いで俺をみた後にベルを見つめる。ベルはうなづいて、援護とばかりに言葉をかける。
「安心して、セインは私の幼馴染で信用できるわ。もし詐欺をしようとしたら尻尾叩き100回の刑に処してもいいわよ」
「じゃあ……お願いしてもいいでしょうか……」
「では、手を差し出してもらえますか?」
ベルの言葉で安心したのか、無料ではないという事がかえって俺の言葉に信憑性を持たせたのだろうか、フリントさんが恐る恐る俺に手を差し出した。俺はその手を握って「スキルオープン」とつぶやくと俺の脳内にメニューが映し出される。
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『石化の凶眼』
ゴルゴーン特有のユニークスキル『石化の魔眼』が暴走したもの。その力は強力ゆえに制御をうしない持ち主を喰らいつくすであろう。
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なかなかえぐい効果である。これは傷なのでないから法術でも癒すことはできないし、状態異常を治すポーションなどで石化を治しても、結局暴走は止まっていないので時間稼ぎにしかならないのだ。
「じゃあ、このスキルを譲るって選んでもらってもいいですか?」
「はい、でも、本当にこれだけで……」
困惑した彼女がしゃべっている途中で俺のスキルトレーダーに新しいスキルが入り込んでくるのがわかる。どうやら信じてもらえたようだ。俺はメニューを開いて、確かめる。
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石化の凶眼 金貨10枚
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やはり、リスクが大きいからか、通常のユニークスキルよりは安い。俺は自分の考えが正しかったことに安堵しながらベルに声をかける。
「取引は終わったぞ。無事スキルは回収できた」
「わかったわ。失礼するわね。少し冷たいけど我慢してね」
「あの……ポーションは意味が……」
フリントさんの言葉を無視して、ベルが状態異常回復のポーションをフリントさんの石化している目にかける。すると、みるみるうちに石化が引いていく。しばらくたっても目の石化は始まらない。俺とベルは目をあわせて、手を叩きあう。成功だ!!
「うそ……目が見える……信じられない……」
フリントさんは恐る恐る石化していた部分の自分の目のあたりを触り、何もないのを感じたのだろう。信じられないという表情をした後に震えながら寝具に顔をうずめる。そして押し殺したようなすすり泣きが部屋に響く。
偶然か彼女の泣き声で目が覚めたのか、幼女ゴルゴーンがおきて「シャー?」とつぶやくとフリントさんは顔を上げてほほ笑んだ。一瞬幼女ゴルゴーンの動きが止り、彼女の目を見ると涙を流しながらフリントさんに抱き着いた。部屋を「シャーシャー」という話し声が支配する。
「翻訳は……いらないわね」
「ああ、流石に俺でも何をいっているかはわかるけど、こういうのは他人が聞いていい話じゃないだろうからな」
そして姉妹で泣きながら抱きあっている二人をおいて俺達は出るのであった。
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