第17話 赤き看板娘ベル4

 あれから色々とあいさつ回りを終えた俺はベルと一緒にお店に準備をしていた。色々とお土産などももらってしまい鞄の中は一杯である。

 それにしても本当に立派だな、ベルは……俺は今も人語を喋れないハーピィという、頭と胸が人間の女性だが腕が鳥の羽になっており、下半身も鳥の様になっている女性型の異種族を相手に商売をしている。なにやら俺を見て指をさしているが何をしゃべっているんだろう。あ、ベルが顔を真っ赤にして首を振っている。変な事を話していないといいんだが……



「ベルはすごいな……」

「何よ、いきなり……」

「いや、ここに来る人ほとんどがベルに好意的に話しかけてくれたし、俺の事を紹介するときもみんな笑顔で受け入れてくれてたからさ。おかげで何人かはスキルの事を仲間に聞いてくるって言ってくれたし」

「別に商売だから愛想よくしているの、それに私は私のできる事をやっているだけよ」



 そういうと彼女は顔を少し赤くしながら嬉しそうにはにかんだ。彼女は謙遜しているが、本当にきちんとやっていると思う。ここにいるのは人に好意的な異種族ばかりだが、コミュニケーションは文化も常識も違うので難しいと言われている。翻訳スキルがあるとはいえ、彼女が言うほど簡単なものではないだろう。言葉が通じるからと言って気持ちも通じるとは限らないし、人とは異なる外見の異種族と偏見なく、対応できるのは彼女の強さだと思う。現に今もリザードマンの子供相手にニコニコと接している。



「それにしてもうちの店結構品ぞろえがばらばらだよな……」

「まあね、この機会にって言ってみんなが商品をわたしてくるのよね。食べ物に、武器や防具、あとは傷や状態異常に効くポーションとか色々あるけど結構売れるのよ。それぞれの種族に得意分野とかあるしね」



 そう言うと彼女はそれぞれの商品を作った人がどう頑張ったかなどを順番に教えてくれる。例えばこの剣は鍛冶屋のおっさんがたまたま手に入れた鉱石で作った傑作だそうだ。このポーションは特級の薬草からとったエキスがたっぷり入っている特別製だそうだ。確かに金額は普通の者よりも高いと思ったが、その分通常の者に比べて原価や手間が段違いなようだ。これはおそらく、異種族の人たちに人間達の商品を知ってもらいたいという気持ちの表れだろう。



「確かに……さっきも、エルフとか武器を買ってたもんな」

「そうそう、私達人間の方が鋳造技術が高いのよね、そのかわりエルフたちは手先が器用だから彼らがつくった木の籠とか高値で売れるのよ。アクセサリーの模様も綺麗だし」



 ここではお互いが助け合っているんだな。俺がそんなことを思っていると視線を感じたので振り向くと、一人の8歳くらいの幼女がポーションの瓶を見つめていた。目の瞳孔が人と違い縦になっているところからして蛇型の異種族であるゴルゴーンだろう。普段は目以外は人の女性と同じだが、本性は下半身が蛇のしっぽになり、髪の毛が蛇になり見たものを石化させるというユニークスキルを持った異種族である。



「このポーションが気になるのかい? これは銅貨2枚だよ」



 商品が欲しいのかと思ってかがんで声をかけたが、彼女は自分の手を握りめて少し悔しそうな顔をしてそのまま走り去ってしまった。思わず声をかけたが言葉が通じないんだよな……もしかして不審がられた?



「ロリコン……」

「いやいや、おかしいだろ、普通に接客しただけだっての!!」

「あんたの変態オーラを察したんじゃないかしら? でも、あの子前も来てたのよね……」

「いや、俺はロリコンでも変態じゃないんだが……どちらかというと大人のお姉さんが好きなんだが……」

「ふーん」



 俺の言葉になぜかベルはさっきまでのからかうような笑みを一変させて、不機嫌そうにこちらをにらんでくる。



「そうなんだ……エレインさんみたいな?」

「いや、あの人はへっぽこすぎてお姉さんって感じが……」

「そうね……例が悪かったわ……」



 素直に謝るベル、エレインさんも最初の印象はすごい大人って感じだったんだけどな……なんでだろう、残念な部分が強すぎる。だけど、肝心なところで頼りになるのはなんだかんだお姉さんっぽさがあるのかもしれない。

 俺達はその後もひたすら接客を続け、ちょうど一息ついた瞬間だった。先ほどポーションをみていたゴルゴーンの幼女が棚からポーションを抜き去っていくのがみえた。




「悪い、ベルちょっと抜ける。万引きだ」

「え、ちょっと……」



 確かにポーション一本大した金額ではない。だけど、このお店は万引きしやすいという悪評が立ったら今後面倒だし、あの商品は作った人の想いがつまった商品なのだ。何よりも、あんな幼女が盗むなんてなんか理由があるはずなのだ。先ほどみたなにやら必死そうな顔が気になったのだ。俺は幼女の後を追いかけるのであった。

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