無能な変身魔術師の真髄 ~武器と道具が女の子になると、最強になれるんですね~
室星奏
01 下層に落下してしまったようだ
俺の名前はクレイ・フォカスト。この世界で言う、【変身魔術師】と呼ばれる天職についた物だ。といっても、この世界ではどうやら無能として扱われているようだけれど(俺もそう思ってる)。
というか寧ろ、無能じゃなかったら今頃俺はこんなところになんている筈もなく、地上で仲間に囲まれて楽しい冒険者ライフを過ごしていたことだろう。
しかし今、そんな状況とは180度かけ離れた状況に置かれている。何があったのか説明すると長くなるが、端的に言うと俺は今、数日前に仲間たちから見捨てられ、ここ最難関ダンジョンとされる
「……」
『グルルル……』
今もなお、俺は死ぬか生きるかの瀬戸際に追い込まれている。目の前にいるのはA級クラスモンスターの一種、
だが、王虎は私の臭いを嗅いでは困惑している。まるで、自分が人間だと断定できていないかのように首をかしげている。
そりゃそうだ。今俺は変身魔術によって石に変身している。これによって王虎の視覚を欺きながら耐え忍んでいる。最も、石に変身したと言ってもそれは外見だけであり、内面は俺そのものでしかない。石と同じ硬度になっているとか、石と同じ重さになっているとか、そういった便利な能力は持ち合わせていない。あくまで外見だけなのである。
しかも変身させることができるのは、自分と自分の所有物のみ。他人の所有物や敵等は変身させることができないのである。
そりゃ無能って言われるよな。
そもそも、どうしてこんな状況に俺が陥ったのか、それはいたって単純なお話である。
さっきもいったが、俺は一緒に冒険を繰り広げていた仲間たちに数日前見捨てられている。理由は当然、俺が冒険においては役立たずのクソ野郎だったからに他ならない。
パーティーの
そんなある日、まさに今俺がいる逆塔の攻略をしている途中……確か第80層あたりだっただろうか、そこで俺達は野宿をすることになった。俺は、それが仲間たちの罠だという事も知らずに、気づいたら深い眠りへと堕ちてしまっていた。
目覚めると、そこには既に俺以外の誰もいなかった。困惑した俺は、周囲を見渡てはみたが、人影一つも見つける事が出来なかった。
途方に暮れてしまったが、ふと俺は気づく。そういや荷物の中に『抜け出しの珠』と呼ばれるアイテムがあった事を。これはその名の通り、使用すればダンジョンから一瞬で抜け出す事の出来るという便利な代物だ。
死にたくなかった俺は、さっそく元の位置に戻って鞄を漁ったが、珠どころか衣服以外の荷物が全て鞄の中から消え去ってしまっていた。いったい何故――と、そんな時、鞄の底に見慣れない紙切れがあったのを見つけ、急いで取り出す。
そこには、信じられない言葉が書いてあった。
『君が目覚めている頃には既に、俺達はダンジョンを脱出しているだろう。散々俺達の足手まといとなった事を、地獄で後悔するといい ―パルド』
それで俺はすべてを悟った。このダンジョンに来たのは攻略するためではない。お荷物となった俺という存在を消す為に、一番手っ取り早い方法を取ったのだろう。口でそのまま伝えてしまえば、俺は絶対に抵抗しただろうから。
全く、賢いパーティーに就いてしまったのも、間違いだったようだ。
その後は奴らの思惑通り、俺目掛けて幾多の魔物たちが襲い掛かってきた。その都度俺は石に変身したり、葉っぱに変身したりしてやり過ごしてきた。正直運が良かったと言っても過言ではない。変身過程がバレてしまっては、完全に意味をなさなくなってしまうだろうからだ。
だがその運も、ある日尽きてしまった。モンスターの気配を感じ、石に変身したのだが、気配を消す事が出来るスキルを持ったモンスターに観られてしまったのだ。そう、想像していた最悪の事態が本当に起こってしまったのだ。
あの時の絶望は今でも覚えている。というか、トラウマとして根強く残っている。その時の俺に残された選択肢は、もう死しか残っていなかったからだ。
『死にたくない』という感情だけに身を任せ、とにかく逃げて逃げて逃げ回ったが、最悪な事に行き止まりまで追い込まれていたようだった。奴らは意外と人間みたく賢いのだ。
ジリジリと間合いを詰める敵から眼を逸らし、背後に一瞬目をやる。そこには落下防止の為なのか、柵が建てられた大穴があった。
その時の俺にはどっちにしろ、死しか残っていなかった。ならいっそ、モンスターに喰い殺されるくらいなら、落下死して死ぬ方がよっぽどマシだと俺は判断した。
――意を決し、俺は落下した。
何度も、色んな階層をこの眼で見てきた。第90層、100層、150層――こんなつまらない光景が最後になるんだなぁと悲しい気持ちになりながら、死を覚悟し目を閉じた。
と、思っていたのだが、幸いな事に俺は生きていたようだった。
落下した場所は第298層、逆塔の最下層だ。そこに存在していた大きな湖の中へと落下し、奇跡的に助かったみたいだった。
そこは古い遺跡のような景観をしていた場所あり、当然のように人気はいなかった。そりゃそうだ。
しかし魔物は当然のように存在し、しかもダンジョンには絶対にいないであろうA級モンスターが至る所に存在する。前居た層よりもさらに地獄のような場所に来てしまったようだった。
それで今に至る、というわけである。ここで過ごし始めてから早数日。さすがに空腹の面でも、体力の面でも限界である。
『グルル……』
「……いっ……たか?」
王虎がズシズシとその場から立ち去ったのを見計らい、変身を解き柱の影に隠れる。さて、これからどうしようか。
さすがにここで永遠に暮らす、というのは心身共にもつわけがない。何時か絶対に発狂する。
……となると、俺に残された選択肢は一つか。
頑張って地上を目指す。モンスターに襲われそうになったら、逃げて隙を見つけつつ何かに変身する。最初は失敗したが、数日も繰り返せば、さすがにコツもちょっとだが掴めてきていた。
ヨシ! と意を決したその時、俺は目の前に一本道があるのを見つける。さっきは石になっていて気付かなかった様だ。
冒険者という職業柄、こういう一本道の先には宝箱とかよく置いてあったりするものである。宝箱の中には携帯食料も入ってる可能性があるため、さすがに確認しないというのはもったいないだろう。
隙を伺い、一本道を走り去る。
そこには案の定、宝箱が置いてあった。しかもレア度の高い赤色。さすが最下層だ。
「……携帯食料、携帯食料ッ!」
祈りに祈りながら箱を開く。――そこにあったのは、なんと、なな、なんと!
「……杖かよ」
綺麗な装飾がされ、魔力が少し溢れた美しい形状の魔杖。見た目から推測するに【黒魔術師】専用といった所か。一応【変身魔術師】も【黒魔術師】系統の天職である為、扱えない事はないのだが、変身魔術しか使えない俺にとっては宝の持ち腐れである。
「武器より食糧くれよ、食料~~ッッ!!!!」
と嘆き叫ぶと背後から聞きたくもないような音が聞こえる。
ズシ……ズシ……。
それは、明らかに獣の足音だった。
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