第64話 ショッピングを侮っていました(2)

 お互いの友情を確かめた後、戦地に行った。

 服、服、アクセサリー、靴、アクセサリー、服、靴………

 これ以上他に何を述べよと?ファッションが嫌いなわけじゃない、でも女性物の服やランジェリーをジロジロ見る趣味なんてない。

 と言うか耐性がない。アシル君も俺と同じらしく、無関心を貫いている。

 この状況下で逃げださないのは、偏に彼の優しさゆえだろう。何という紳士!

 マティルドに振り回されていながらも嫌な顔を一切せずに付き合うなんて……

 そもそも逃げ場なんて最初っから存在してなかったけど。

 唯一の救いは、昼食の時間だろう。ようやく一休みが出来る時間が得られた。


 そんなこんなで時間が着実に過ぎて行き、俺は友(?)を見捨てる行動を取る。


 ~~~~~♪~~~~~♪~~~~~♪


 これは俺の携帯の着信音だ。普段ならこういう外出の時はマナーモードにしているが、今回はあえて他の二人に聞こえるよう最大音量に設定しておいた。


「あっもしもし茜?」

「もしもし淵ちゃん☆?」


 ついでに電話の相手は茜だ。前回電話した時に、今日この時間に俺の携帯に電話して欲しいと言った。スピーカーにしているため相手が女性だと言うのは分かるだろう。

 アシル君は俺に彼女がいるかどうかは知らないため、勘違いするだろう。それが狙いだとも知らずに。

 マティルドは、俺が女子との交流において敬語を使わないことと、恋愛経験皆無だと認知しているため驚いている。


「理由も言わないで、『とりあえずこの日のこの時間に電話して』って言われてしたけど、結局なんなのかな?私の声が聞きたかったとか♪」


 連絡するために電話してと言ったから、まぁある意味声を聴くためだな。


「そうだね、茜の声が聞きたくて電話を頼んだ感じかな」

「えっ?!ちょ、ちょっと待ってまだ心の準備が…」


 なんか凄い驚いているし面倒だから、マティルド達の方に語り掛ける。


「すまない、まさかここまで長引くとは思わなくて…彼女とのデートに遅れていしまいそうなんだ。残りの時間は二人で楽しんできてくれ」

「彼女とデート??!!」


 ちょっと黙ってくれますかね茜さん。

 いくら日本語でも、驚いていることは伝わるんですから。

 反応は絶望一色。あれー、どうして二人共同じ顔をしているんだろう?

 マティルドは不安による絶望だろう。どうやってアシル君と二人っきりで乗り切るか。アシル君はまだショッピングに付き合わされる事に絶望している。

 これだけ見たら両者とてもお似合いなのになー。とっとと付き合ってもらいたいものだ。


 っというわけで戦線離脱成功。

 茜にはお礼を言って電話を切った。説明は明日合うんだろうしいらないだろう。

 アシル君には離れる前に、途中で逃げないでとくぎを刺しておいた。

 あのままだと俺の離脱に便乗して『俺も用事が……』って言いそうだったし。

 それじゃあマティルドが可哀想だ。ん、俺?俺はまぁこっからが本番だから。


 勿論デートなんてするわけもないので、茜に手配してもらった人たちがいる場所へ向かう。こっちの動向を随時見られる所に居てと言っておいたので割と近場の筈。

 携帯で連絡を取ると会えた。初対面と言うわけでもなく、友達でもない、ビジネスパートナーみたいに節するから一番楽。


 彼等とは昨日打ち合わせを済ませているので、後は実行に移すのみ。

 年齢は20代前半のいかにもパリピと言う感じを漂わせる男性二人だ。


 彼らの役割は俺の駒、すなわちマティルドにナンパする人員になってもらう。

 ラブコメがラブコメたりうるのはイベントがあるからだ。人の絆は壁を乗り越えてこそ強固になる。だがそんな恋愛イベントはそうそう現れはしない。ならどうすればいい?答えは簡単。自分から作ればいいのさ。

 ボードゲームのようなものさ。駒は人で、イベントはカード。そしてそれらを操作するゲームマスターの俺。ゲームマスターと言えるほどの傲慢は許して欲しいが、これが事実だ。

 過去に携わってきた数多くの恋愛では、必ず何かをけしかけていた。たまに勘付いていたものもいたがね。


 話を戻そう。今回はナンパと言うド定番な展開でアシル君の対応を観察させてもらう。これで最低すぎる態度を取ってしまったら……悪いけどマティルドには諦めてもらうほかない。

 俺は万が一のために現場には行かない。ある個室に入って、バッグの中に持ってきていたパソコンを取り出す。

 ここから監視カメラをちょこっとハッキングして、俺のパソコンに同調して写るようにすればいい。後は指示を送るだけで、俺の影は全く見えないとさ。

 情報漏洩については問題ないだろう。なんたってあの茜から紹介された人たちだ、相当口は堅いだろう。


 そのお二人は俺がハッキングするまでに個室の外で待機してもらっている。

 一応ボディーガードみたいな配置なんだけど、なんせ見た目があれだから違和感が半端ない。


 カタッカタカタカタカタッカタッカタッ


 静かな部屋で聞こえてくるのはタイピングの音だけ。

 そして―――――


「よしハッキング完了!」


 ナンパ隊出動だ!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る