第61話 お勉強

 というわけで、来てしまいましたこの日が。

 マティルドとアシル君、プラスαの俺という組み合わせのお出かけー。イエーイ。

 ……嫌な予感しかしない。幸いと言っていいのだろうか、ラファエル君とヤンの予定は埋まっていたため邪魔は入らない。

 ラファエル君がいたらマティルドを楽しませようと頑張って、計画が狂ってしまう。

 予定が無く、付いて来ようとした暁には……裏で排除する必要があったから点が省けて良かった。あっ、殺すとか物騒な事じゃないからね。


 そんな事を考えながら集合場所に着く。どうやら俺が一番乗りのようだ。

 まぁ、予定より30分も早く来ていれば一番乗りにもなるだろう。

 …なんか遠足が楽しみで眠れなかった子みたいな行動だけど、念には念をってやつだから!誰もいないせいか、自分の中でボケとツッコミを両立させ自己完結してしまってる…

 マティルドにはどうやってあのアシル君を釣れたのか聞かせて願いたいものだね。

 例え俺を出汁に使ってもアシル君は動かないと思っていたけど。


「は~い誰だ~?」

「ヒッ!!」


 後ろから目を塞がれて何も見えない状態。

 正直後ろから回って目を塞がれること自体には、百歩譲って許そう。

 だけどそれが女子だとこっちの身が持たない!小さな悲鳴が出るほどにね!

 女子に触られただけで悲鳴が出るほどの体を恨むわ!

 それに正体はもう分かってる――――


「マティルドさ~ん、貴方分かっててやっていますよね??」

「あっ、ごめん淵く~ん。女子との接触無理だったの忘れていたわ~?」


 イラッ!!

 マティルド…絶対に覚えていながらやったな。最近は彼女のせいで心労が増えた気がするのは、気のせいではないだろう。この小悪魔め!

 ………はー、落ち着けたかが女子高生に怒っても無意味だ。

 しかもマティルド相手だと尚更。さっさと切り替えよう。


「次からは本気で怒るからな」

「淵君怖い怖い。分かった次からは許可をもらってやるから、睨むの止めてー」

「許可なんて出すわけないだろうが!」

「だよねー」


 俺の心の平穏を返して欲しいんだけど?!

 さっきまでは一人で頭を回していたから静かだったのに、マティルドが来た瞬間ツッコミにしか頭が回らなくなった。茜を台風と表するなら、マティルドは火山だな。

 行動一つ一つが爆発的だし、感情の起伏も激しい。うん、ぴったりだね。


「淵君何人の顔を見て失礼なことを考えているのかな?」

「えっどうして?」


 あっヤバ。鎌かけられた。


「ッ!!やっぱり考えていたわね、淵君には天誅を下さなくてはいけないらしいわね。ちょっと来なさい!」

「ちょ、ま。暴力反対!アシル君にでも目撃されたら評価が下がると思います!」

「大丈夫肉体の話じゃなくて、精神的に懲らしめるから」


 ちょっと笑顔が怖いんですけど?!

 あれっ?前もこんなことがあった気がする……

 まぁ慌てないけどね、だってすぐ後ろに――――――


「おはよう」

「おはようアシル君♪」

「………おはようアシル君」


 アシル君がいるもん。

 ちょっと待って現実でも振り返ったら表情を180度変えれる人っていたの?!

 そこが一番驚くんだけど。って言うか何という手のひら返し。

 さっきまでの天誅やらは何処へ行ったのだか……


「なんか邪魔しちゃった感じかな?」


 アシル君は俺がいるため、いつものコミュ障全開の喋り方を止めている。正直助かるよ。これでマティルドも俺と強制的に同じ土俵に立ったっていう事になるから。

 今の感じ…なにか物凄い勘違いをしている気がする。


「邪魔じゃないよ。丁度アシル君の事を話していたら、本人が来たってところかな」


 マティルド俺の発言に便乗してくれよ。そうしたらさっきの見られていたかも分からない行動に正当性を与えられる。目でなんとかサインを送ると、頷く。どうやら理解してくれたらしい。


「そうそう、アシル君について淵君が聞いてきたの」


 う~んキャッチしたことについては嬉しいけど、それをもう一度こっちにリリースはして欲しくなかったな!だが俺のハイスペック(仮)頭脳なら、この場を怪しまれることなく抜け出して見せよう!


「へ~何について聞いていたのか、自分も気になるよ」

「あはは、大したことじゃないよ。知り合ってからあんまり時間は経っていないけど、あんまり外出するイメージがなかったから、どうやって外に引きづったのか聞いていたんだよ」


 よし!俺のファインプレー。


「あー確かに自分はあまり外には出ないね。今回は彼女に『外でお勉強しよう』と言われ、たまにはと思い来たところだ」


 ???待てよ…その言い方だと、多分マティルドの言いたいことを理解していないと思うぞ。


「アシル君まさか、外でのお勉強の事を、カフェとかで勉強しようと勘違いしていない?」

「えっ違うのかい?」

「いや俺も呼ばれた身だから、今日何をするのか分からないけど恐らくは…」

「そう、その通り!今回は外でアシル君が今まで見向きしなかったところを『勉強』しに行くのよ!」


 やっぱりかー。確かに勉強と言ったら、アシル君みたいな単位がすべてな生徒はまんまと釣られるだろう。いや、もうこれただの言葉遊びでの罠じゃん。しかも結構幼稚なやつ。仕掛ける方も仕掛ける方だけど、網に掛かる方も掛かる方だな。



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