第41話 報告内容
誰もいないはずの教室の扉を開ける。そこには『待ってました!』と言わんばかりの顔で机の上に座っていた。いや、どういう顔だよ!とりあえずなんかいいことがあったのは間違いない。
「ヤンはラファエル・バイヨと接触して、仲を深める事は出来ましたか?」
「えぇ。もう大成功を通り越して大大大大せいこーうよ!!」
鼻息を荒くしながら、とても興奮した様子で作戦報告をしてきた。大成功を通り越して大大大大せいこーうは意味不明だが、可愛かったからいいや。
そこまで言うならばヤンは無事仲良くなれたんだな。だが疑問は残る。何故マティルドと一緒に接触するはずだったのに、ヤンは俺に報告せずマティルドしかいないんだ?
「ところでもう一人は?」
ヤンの居場所を問うと、マティルドはあからさまに目を逸らした。
……ヤン関連だからとてつもなく下らない理由だろうが、念のため聞いておこう。
「……作戦内容はラファエル・バイヨとの接触&友好関係を設立だったわよね」
「それで合っていますね。大(×4)成功なのに、何か問題でも発生しましたか?」
「わざわざヤン君に協力を仰いだのは、どうやって調べたか分からないけどラファエル・バイヨがゲーム好きだからよね」
「あの二人は知識の差があれど、相性はいいので必然的に」
「でも相性が良すぎたわ」
「はい?」
相性が良すぎたことに何の問題が?……いや、待てよ。ゲームとは趣味であって、オタクとは何かの分野に没頭、もしくは熱中しているものを指している。そして彼らの共通点はゲームが好きすぎて睡眠時間を削っていること。つまり両者ともゲームオタクだ。オタクとオタクが出会って起こす化学反応と言えば―――――
「出会った瞬間、まだ一言も喋っていなかったのに、二人は視線だけで私には分からない何かを理解したらしく、黙って移動し始めたのよ。私はヤン君の付き添いとして着いて行って、どんな話をするのか気になっていたら……ゲームの話をし始めたわ」
「………………………」
オタク同士が巡り合うと起こる現象は自分たちの世界に入ることだ。数10年前は、そういう専門的な用語を使っていたら差別されて、気持ち悪いと言われていたが…現在は過去より自由度が段違いなため、悪い目では見られないけど……マティルドにとっては意味不明とまでは行かないが、知っているものではないだろう。
「私だってゲームはするのよ!だから少しは会話の中に入り込めると思ったんだけど…何もわからなかったわ。ゲームのタイトルは分かるのよ、でもグラフィックや前作の話や、使われているパーツ、心臓部分の話もしだすから頭がパンクしたわ!」
三人でいながら一人だけ話についていけないのは辛いものだ。良く分かる。
ヤンと一緒にいた時の無力感を吐き出すように、会話の内容を教えてくる。
……俺は作戦報告を聞きに来たはずなのに、美少女の愚痴を聞いているのは何故だ?
報告しに来ないで、ラファエル・バイヨと楽しく話しているヤンもだが、重要性を理解しているのかな?
依頼人はマティルドだと言うのに全く緊張感がないように見えるし…
「分かりました、分かりましたから。そろそろこの辺で終わらせてください」
「はっ!つい思ってしまったことが口に……コホン、次は何をするの淵君?」
咳払いをして満面の笑みでこっちを向いてくるマティルド。どうやら今聞いたことは忘れて欲しいらしい。目が笑っていない。
個人的には人間は負の感情をためやすいから、周りにいる仲のいい人とかに愚痴を聞いて貰うのはいいと思う。その人の負担が減るし、相手側も信頼されていると思えるから、双方に不利益はないと思う。
ラファエル・バイヨにも近づけたから、次は本命のアシル・ボドワンと言いたいところだが――――
「何もしませんよ」
「ゑ?ラファエル・バイヨと仲良くなったんだから、次はアシル君と友好関係を築きに行くんじゃないの?」
確かにラファエル・バイヨとは表面的な友好関係は築けた。
人間関係は一日程度では成り立たない。要は一日目はお試し期間みたいのものだ。
本当の友達というのはある程度の時間をともに過ごさないとなれやしない。たとえどんなに趣味があっても、女子の好みがあっても、同じ考え方を持つ人だとしても、ありえない。『友達の友達はみんな友達と』と言うやつは、表面上は友達という関係を作れるが。意識下か無意識下では、本当に付き合いの長い者とは違う態度を取る。
だからラファエル・バイヨがヤンという唯一無二の存在にある程度馴染んでから、マティルドの依頼を進める。
「今動いたら、アシル君に怪しまれると思いますよ。『一日で友達になった人達』は幼馴染に紹介されたとしても、すぐには信用されないので」
「そうよね…じゃあいつになったら動けるか分からいじゃない」
「いいえ分かりますよ、私ならいつ動くべきかを」
「……どうせ教えてくれないんでしょ」
「理解が早くて助かりますよマティルドさん」
それに待っている間に君は何もしないが、俺は何もしないつもりはないよ?
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