第39話 作戦会議(ヤン任せ)

 俺は自分の周りの人の話を聞くのが好きだが、自分に関連性がある話はあまり好きではない。友達ならまだいいが、情報というものは本当に信用できる人にしか明かさなくてはならない。人間の口にはチャックが付いていないから、どこからでも情報は流出する。そのおかげでジェントルメイデンとして動くのも楽だが、俺がやっていることが公になったら少々だから話さないで欲しい。


 叫んでいるヤンはひとまず置いておいて、マティルドが不思議そうにこっちの顔を覗き込んでくる。どうやら、まだ疑問があるようだ。


「淵君、調節ってどういう意味?」

「そのまんまですね。ヤンはどの人物に対しても同レベルの会話が出来るんですよ。勉強が好きな人、専門的な知識に対しては無力ですが、今回は馬k……ラファエル・バイヨが相手ですから大丈夫でしょう」

「でもそれが話を合わせる事と何が違うの?」


『話を合わせる』と会話の内容を『同レベル』に下げることにどんな違いがあるのか?

 簡単だ、同レベルに落とした方が気さくな関係を作りやすいからだ。話を合わせるということは、例え全く分からないことを話していたとしても、相槌等どういの言葉を用いればいいということだ。その真逆が会話のレベルを相手と合わせることだ。

 自分と全く同じ考え方、会話の内容、趣味に、同族嫌悪でない限り仲良くなることは容易い。だがそんなことを人間が出来ると問われたら、なら無理だろう。だが唯一可能な奴がヤンだ。


「ラファエル・バイヨととてつもなく相性がいい友達になってもらいます。要は彼の言動を観察して、ラファエル・バイヨにとっての唯一無二の存在にヤンがキャラを作るんですよ」

「え~と…つまりヤン君はラファエル・バイヨに見合ったキャラを演じるってこと?それって騙していることと同義じゃない?」


 察しがよくて助かる。騙すことになるが、ヤン自身がマティルドの恋愛が終わって、ラファエル・バイヨと友達を継続するなら問題はない。無論、ヤンの本性を剥き出しにしても彼が友達でいたいのならばの話だが……ヤンなら大丈夫だろう。今回同様、友達の助けに応じてくれる優しい奴だから、この件が終わってすぐに縁を切るとは思えない。


「大丈夫ですよヤンですから」

「ッ!!……てめぇ俺ならラファエルと友達を継続すると思っているな?言っとくが嫌な奴だったら、今回の件が終わったら―――――――

「いいや、俺の読みが正しければヤンはラファエルと相性がいいから、友達を超えて親友にすらなれると思うよ。ところで何故彼がこんなにも成績が悪いかをまだ喋っていなかったね。—―――ラファエル・バイヨはヤンと似てゲーム大好きマンだ」

「……通りでてめぇはサーシャじゃなく俺を頼りやがったのか。サーシャもゲームはやるが、俺より知識は豊富じゃねぇからな。不思議に思ってたぜ、社交性があるあいつじゃなくて俺を抜擢したんだからよぉ」


 ゲームというものはもう何十年もこの社会に根付いていて、人類の革命と思えるほど楽しいものだ。あまり長い歴史を持っていないのに、既にありえないほどの作品数が世界で売られている。ラファエル・バイヨはその中でもマニア中のマニアだ。だが、ヤンを超えられない。ラファエル・バイヨは睡眠時間を削っているが、ヤンは睡眠時間をゴミ箱に入れるかのように全てゲームに費やす、ゲーム馬鹿だ。


「そうだ。今回は比較的簡単だろ?お前は口調をちょっと変えて、彼のゲームへの知識量と合わせればいい」

「簡単そうに言うわね淵君…」

「実際それぐらいなら楽勝だろ?」

「あぁ、まさかそんな簡単なことのために協力させられるとは思わなかったぞ」

「……(この二人、会話の次元がおかしいわ。やっぱり類は友を呼ぶのね…)」


 これを簡単と言えるヤンがおかしいんだけどね。マティルドは黙ったいるが、視線で俺とヤンを見比べているから多分変人扱いされているんだろう。俺はヤン程変じゃないぞ!ただジェントルメイデンという不名誉な二つ目の名前を持っているだけだ!


「というわけで詳細は全部アドリブで頼む」

「会話の内容はすり合わせないの?」

「ケッ!必要ねぇよ、んなもん。準備無しの一本勝負の方が面白れぇだろうが。それに淵から指示を受けることが癪だと言うのに、これ以上指示されたら、例えマティルドの頼みであっても、切れるぞ?」


 一応言っておくが、まだ俺とヤンのわだかまりは残っている。だから、気に食わない俺からのお願いを一度は聞いてくれたとしても、後から言い出したらヤンは憤るだろう。

 それに俺の直感だが、ヤンには全部一人でやらせて外野は黙っていた方が事は進むと思う。そう思わせる何かをヤンは纏っているんだ。


「頼むから今は切れないでくれよ、作戦前に冷静なお前でなくちゃこっちが不安になる」

「俺はいつも冷静だ!」

「「えっ?嘘でしょ?」」


 マティルドと被るように言葉が口から出てきた。

 冷静ならそう思わせるような態度を取って欲しい!


 ~~♪♬~♪~~♬~♪~~~♪~~♪~~~♬


 朝のチャイムが鳴った。日本ではキーンコーンカーンコーンが主流らしいが、フランスでは各高校によって音楽が流れるようになっている。しかも一週間たったら毎度変わるし…

 今回はB〇Sの新曲だったらしい。気持ちも昂るから音楽の方がいいんだけどね。


「それじゃ作戦決行は一番長い昼で。私はいませんのでマティルドさんはヤンと一緒にいて後から状況を説明してくださいね。ヤンは…特にいうことはないな、とりあえず頑張れ~」

「わかったわ」

「俺に対してはずいぶんと適当だなぁ~?後でシバくぞ?」


 今回のは冗談だから怖くも何ともない……多分。冗談だよね?ね?

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