第37話 集合

 海との結構重めな会話の後だと、携帯から発せられるすべての音に対して体が硬直する。お願いだから、面倒ごとはもういらないからな……恐る恐る、スマホの画面を見ると、サーシャからメッセージが。


『た…す…け…て』

「よし!問題ないな!」


 どうやらサーシャからのSOSコールみたいだが、メッセージを打てる余裕があるのなら、大丈夫だろう。それにサーシャがヤンの家にいても、命を失うことはないだろうから助けないでいいだろう。既読スルーして俺はリビングへ向かう。

 昨日同様この時間に起きている家族の一員はおらず、ソファを独り占めできる。特にやることがないので、適当にゲームをやろうと思ったが、最近ニュースを見ていなかったため、テレビの電源をつける。

 うちは親が携帯で見たニュースを教えてもらっているだけで、陽と俺は見ていないから、今起きていることに疎い。


『次のニュースは心臓病について―――――――』


 どうやら俺が今見ているニュースは、心臓病で亡くなった人についてらしい。心臓病…か。その人ももっと生きたかっただろうに…御愁傷様。朝から、重い話しか聞いていない気がする。

 テレビを消して部屋に戻りゲームをやるためにコンピューターをつける。

 ゲームをやる前に、明日することについてちょっと予習。


 そして…淵は一日中部屋から外に出なかったとさ――――――

 昼と夜のご飯は部屋にストックしてある食事で済ましている。別に不健康ではない。普通ならここで思い浮かぶのはカップラーメンとかだろうが、俺はちゃんと栄養を摂取したいのでカット状態の野菜なども用意している(昨日用意していた)。これでこの部屋から出なくてもいい。廃人みたいな生活だけど、俺以外にもやっている人なんて五万と………真っ先に思い浮かぶのが、あのゲーム廃人のヤンしかいないから、そんなにいないかも。

 というわけで、俺の日曜日はゲームをして終わった。


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 そして次の日の朝。いつもの目覚ましで起き、朝の支度をして、食事等をしたのに。普段とは違う、高揚感が胸の中にある。果たしてこれは、緊張なのか、もしくはこれから起きることへのわくわくなのか、俺にも分からない。

 そのまま学校へ行き、校庭で待った。指定されたクラスはなく、生徒たちはチャイムが鳴るまで外で待って、中に入る。よって複数のグループが校庭で形成されている。

 俺はと言うと、知り合いは見当たるが、友達は見当たらないのでベンチに座って待つ。多分もうそろそろ来るであろう二人を。


淵、よくもやってくれたな!久しぶりの再会がお前に怒ることになるとは思わなかったぜ!」


 声の方向を見ると、ヤンがいた。彼は中国人であるため、身長はあまり高くなく、ニコラのちょっとした位だ。黒髪パーマで目は俺と同じく黒目。横に並んだら、兄弟とよく見間違われていた。同い年なのに悲しい現実だな……(ヤンにとって)。顔は滅茶苦茶可愛くて、小動物みたいな男子なのだが。見た目に騙されてはいけない。ヤンの容姿を持っていながら、口から出てくるはずのない汚い言葉がマシンガンのようにこいつから出てくるのだ。付き合いが長くなると、半分以上は冗談で言っているから分かるが、初対面の人は苦手意識を植え付けられただろう。正に、小悪魔なマティルドにぴったりな友人だ。

 女子の小悪魔はまだいいが、男子verとなるとそれはもう可愛くなくなる。その可愛くない存在の化身がヤンだ。そして、現在激おこ状態。俺のせいだけどな。


「俺は怒りの感情を受けると思ってたよ。久しぶりだなヤン、そして一昨日ぶりですねマティルドさん」

「ちっ!相変わらずてめぇは女子相手に仮面を被って、気持ちわりぃ敬語を使ってんのか!」

「別に俺の自由だろうヤン。それより、早く進めようぜ」

「そうよヤン君はパイプ役なんだから、早く話を詰めないとチャイムが鳴っちゃう」

「…わーたよ、でも淵お前は分かってるはずだ、俺が怒っているのはゲームのせいだけではないということを」


 マティルドは俺達の間に何が起きたかは知らないから、沈黙を守っている。そりゃ空気がこんなに重くなれば、誰だって押し黙るだろう。


「わかってるさ。を読んだんだろ?ならやるべきことを弁えている筈だが?」

「……クソが!先にマティルドの件を終わらせるぞ!」


 いつにも増してイライラしているが、内心はちゃんと冷静なのだろう。それにこんな乱暴な言葉遣いでも、本番の時はちゃんと取り繕ってもらえるから心配はしていない。マティルドは我関せずから帰ってきて、俺の指示を聞く気満々だ。


「助かる。マティルドの依頼が終わったら、決着をつけようか、二人だけで」

「ちょっと待って!喧嘩はダメよ!!」

「大丈夫だ、分かってる。前回と違って今回は語り合うだけだ。喧嘩はしねー」


 過去に起きたことを後悔しているのか、荒々しい態度が落ち込んでいる子犬みたいにしゅんとなった。一瞬だったけど、珍しい一面を見れた。


「それじゃあ挨拶も終わったし、チャイムが鳴るまで作戦会議と行こうか――――

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