第26話 サーシャと合流

 名前も知らない銀髪美少女を高校へ案内した。

 もうじき集合時間のため、急いで〇ックで注文しなくては。

 お店に入って注文しに――行くのではなく、まずトイレに行く。


 周りに人がいないことに気を付けて、メイクを落とすために顔を洗う。勿論、予め用意していたメイク落とし剤で。次に髪だが、こういうのはシャワーを浴びなければ中々元の髪形に戻らないため、今回は適当に水をぶっかけてやり過ごそう。

 蛇口から出る水を両手で掬って髪を洗うようにワックスを落とす。

 タオルを持って来るべきだった……濡れてはいるけど、水滴が滴る程ではないので大丈夫だと思いたい…多少は目立つだろうけど、必要な犠牲だと思えば少しはマシに思えるだろう。


 そのまま個室トイレに入り、着替える。今着ている服はサーシャにとっては普通に来ても問題がない服だろうけど、学校の俺を知っている人としては変に思うだろう。

 クローゼットを開けたとき、普段来ている服をバックパックに入れていたのだ。

 ロングコートをバックパックに入れて、テーパードからストレートジーパンに切り替える。個室から出て鏡を見ると、水で濡れているがいつもの感じの髪と服装の俺が立っていた。


「これで問題ないな」


 トイレを出て、注文を済ませる。待っている間に現在の時刻を見る。

 12時10分だから、まだ時間はあるな。5分後に注文した品が出来上がり回収して、店を出る。

 そのまま、ルネロ公園へ直行だ。ルネロ公園への道は簡単、家に帰るときに通るから迷う心配もない。


 数分歩いて適当なベンチに腰を下ろす。

 久しぶりに来たが、やっぱり公園とか緑いっぱいな場所があると心が安らぐ気がする。なんだかマイナスイオンで浄化されていくみたいだ…は!危うく浄化されるところだった…陰キャにとっての公園恐るべし…

 という茶番を繰り出す位にのどかな場所で〇ックを食べるのはどうなんだろう?

 …フランスだから許してくれるだろう。誰に許しを求めているか、自分でもわからないけど。

 紙袋の中身から昼食のバーガーを取って――――


「頂きます」


 齧り付く。中々食べる機会がなかったから、こんなに美味しかったことに驚いた。

 カロリー高いから毎日食べたくなる程の物でもないけどね。


 昼食を済ませて、待っている間やることがなかったので、とりあえずぼーっとしながら考えてた。主に頭の中に浮かんできたのは、マティルドとさっきの銀髪美少女さん。マティルドの方はアシル君がどんな人とか、アシル君の性格に沿ってどう対応しなくてはいけないか位だが…

 あの子は本当に謎。見た目は美人、でもさっき手を握った時にも思ったが…

 手、細すぎないか?あれは男女関係なく、肉付きの問題だと思う。何か理由があるかもしれない…後は表情だな。あれは年頃の少女がするような表情ではなかった。

 俺の知り合いの女の子達は、『人生を謳歌しています!!』って顔に書いてある程、喜怒哀楽の喜と楽が強調されているのに、彼女は何か悟っているような、もしくは諦めているように感じた。流石に何かは分からないけど…

 極めつけに、あの時の笑みはまるで―――――――


「後ろにいるのは誰だと思う?淵」

「……サーシャか」

「正解。さっきから呼んでんのに、お前真剣な顔をして気付かねーんだもん」


 おっと、時間を潰すために軽く考え事をしようと思っていたが、思ってたより没頭していたようだ。腕時計を見ると確かに13時だな。


「なんだなんだ、俺が後ろに回ってる事に気付かないんなんて淵にしては珍しいな?女の子ことでも考えていたか?」


 冗談のようにいつも言っている言葉を俺に吹っ掛けてくる。まぁ、今回はあながち間違いではないから、サーシャが想像している答えとは別の物を与えよう。


「……そうだな、お前の言う通り女の子の事について考えていたよ」

「そうだよなー淵だしなーありえ……今なんて言った?」

「聞こえなかったのか?授業では全く別のことをやっていても先生の問いに答えられるお前が?別に隠すことではないから、もう一度言うけど女の子の事を考えていたよ」

「……明日は天変地異が起こるだろうな」

「やめろよ、そんな不吉なこと言うの。それにここは地震の危険性は限りなく0だし、港から遠いから津波の危険性も皆無だ」

「事実を突きつけるなよ…でも、お前が女子に興味を持ち始めたことを俺は嬉しいぜ…彼女出来たら教えろよ?」


 こいつ…俺が女の子について考えてる=彼女が欲しいに直結してるな。

 普通ならそうだろうが、俺は違うぞ?普通の人と何かが違うというわけではないが、俺は彼女を今作る気はない。

 それに女子に興味を抱かなかったら、どうやってジェントルメイデンとして活動していくんだ?男子の依頼が来た場合……うっ!急に頭痛が…いやこれは思い出してはいけない記憶だ…とりあえず男として、女の子に関心を持っていなかったら人間として終わってしまう。


「それはないから安心しろ、それよりヤンの家へ行くぞ。何をやるかは道すがら教える」

「それより、誰の事を考えていたか教えろよー気になるじゃん」


 正直に銀髪美少女って言うか、依頼人って言うかどっちにしよう。

 …なんで嘘をつくかどうかなんて気にしているんだろう?


「じゃあコイントスで当てれたら教えてやる」

「オーケー、んじゃ俺は裏で」

「必然的に俺は表だな」


 財布から1ユーロ(100円みたいなもの)を出し、投げて、キャッチ、そして手の甲に置く。そっと手を抜くとコインは裏だった。

 俺の負けか。


「っしゃー俺の勝ちーーー」

「そんなに嬉しいもんかね。でも残念、俺が考えていたのは、新しくジェントルメイデンに恋愛相談を依頼してきた人でした」

「かぁ~つまんねえ回答だな。でもそんな気がしていたぜ、でももし本当に彼女が出来たら俺に教えろよ」

「……行くぞ」

「答えろよ!」


 茶番が終わって、やっと動き始めた。まったく関係なもので時間を失ってしまった。

 今まで『彼女』という単語に反応しなかったが、今回彼女と言った時に銀髪美少女さんが過ったのはなんでだろう?

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