2 元服式
青く晴れ渡った空の下、白絹の衣の上に、皇太子のしるしである紫の衣をまとった
宮殿の周りには、婚儀を知らせる華やかな紅と黄と紫の布が垂らされ、正門の前には民が押しかけている。
いずれ元服の儀を終えた皇太子が、門の上から民に顔を見せ、挨拶することを知っているからだ。
そして、明煌に輿入れする花嫁の行列も、その門をめざして進んでくるため、花嫁行列を見るのを楽しみにしている民も多かった。
花嫁はもちろん輿の中なので、顔を見ることはできないが、国にとっても、民にとっても久しぶりの慶事で、華やかな行列をひと目見ようという民でいっぱいになっていた。
政所の外に置かれた
その後、
左手には赤の官服を
父王の待つ玉座の下にたどり着き、左右の手を水平に上げてゆっくりと跪き、上半身を伏せながら深く頭を下げた。
元服前は子ども扱いなので、明煌はこんなに大勢の人の前に出たことがなかった。
すべての人の視線が自分に向いていることを感じ、心臓は早鐘を打っていこる。
しかし、式の教えを受けたすべての人から、動作はゆっくり、大人になるという意識を持って堂々とやりなさいと言われていたので、見守ってくれているであろう母妃と月桂に意識を集中し、ほかの人のことは考えないように父王だけを見ていた。
「ここ
父王はそういうと、玉座から数段の階段を降り、腰を落としたままの明煌の前に立った。
あらかじめ結い上げて、小さい団子にまとめてあった髪に、皇太子のしるしである銀の冠をかぶせると、横から銀の簪を差し込み、髪に固定した。
これまで背中に垂らしていた髪を、初めて頭の上に結い上げたので、きつくて痛かったが、そこは大人になるための儀礼なのだ、と自分に言い聞かせた。
父王が玉座へ戻ると、横から月桂が歩み出て、笏を受け取り、巻物を手渡してくれる。
両手でそれを広げ、父王を一度見やると、うん、というようにうなずいて合図をしてきた。
後ろにいる大勢の家臣たちにもそれなりに聞こえるよう、まだ完全に声変りしていない声を張り上げ、皇太子としての決意を読み上げた。
皇太子として、父王を支え、国の発展に力を尽くすこと、人の上に立つ者として、文武を会得し、民の誉れとなること、国の形を守るため、後進の育成に努めること…。
そんなことが今の自分にできるはずもないことは分かっていたけど、いずれ自分は、父王のいる場所に座る日が来るのだ、と思うと、昨日までとは違う自分がそこにいるような気がした。
読み終わった宣言文を巻き戻し、両手に捧げ持って頭を下げると、父王の側近がそれを受け取って、玉座の下から父王に手渡した。
背後からざわざわと参列者が動く音がして、全員がその場にひれ伏しながら言う言葉が、明煌を包み込んだ。
「暁映国、万歳!」「国王陛下、万歳!」「皇太子殿下、万歳!」
声の中心にいた主役の明煌は、場を埋め尽くす人々の大きな声の渦に、自分が巻きこまれていくように感じた。
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