第5話 5月10日(月)
放課後、神代君が鼻をつまみながらやってきた。
「鼻水が・・・」
本日の安藤君は、ティッシュを取り出したように見えた。一瞬だけ。
ポケットティッシュよりも一回り小さな封筒のような物だった。安藤君が取り出したのはあぶらとり紙だった。
「なんだそれ?」
神代君が鼻をつまんだまま尋ねたが、安藤君は知らなかったらしく、首を横に振った。
「それ、あぶらとり紙だよ。」
私が説明をすると、
「あぶらとり紙ってなんだ?」
神代君はさらに質問してきた。私が答えに詰まると、この日も机に突っ伏していた稲葉さんがむくりと起き上がる。振り返ってあぶらとり紙を一枚抜き出すと、おでこに張り付けた。
「あぶらが取れる。テカリが落ちる。」
稲葉さんのおでこに張り付いたあぶらとり紙には小さなうさぎがたくさん浮き出ていた。あぶらを吸うと浮き出るようだ。
「うさぎだ。」
神代君の言葉で、稲葉さんはおでこからあぶらとり紙を剥がすと手のひらに載せた。そして、手のひらのあぶらとり紙を見て呟いた。
「素敵だ・・・」
稲葉さんはうっとりとした表情であぶらとり紙を眺めている。
神代君は安藤君にティッシュを貰い鼻をかんだ。
その音で、稲葉さんが我に返った。
「このあぶらとり紙はうさみんにふさわしい。そのあぶらとり紙をうさみんへ。」
稲葉さんがおかしなことを言い出した。うさみん・・・
「私、あぶらとり紙使わないから・・・」
遠慮してみる。
「だそうだ?」
安藤君が稲葉さんにそう言うと、稲葉さんは勝ち誇ったように言った。
「安藤、うさみんの母もうさみんだ。」
「確かに。」
安藤君があぶらとり紙をくれた。
「ありがとう。」
母は意外と喜んだ。
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