第50話紅蓮の盾の誤算だらけの顛末
悪くない死に方だと思っていた。
風の便りに友は生き延びたと聞いた。
リランジュールの鷹は執拗に俺をいたぶり貶めようとしたが、一度だって赦しを乞うことも服従を誓うこともしなかった。足の腱を切られた時でさえ、唇を血が流れるまで噛んで悲鳴を押し殺した。ようやく飽きて棄てられ性奴隷として辱しめられても、首輪によって何度も罰せられても抵抗を止めなかった。ただ早く死が来ないものかと願っていた。
死ぬなら高潔に死にたい。そうであるよう早く逝けたらと。
意識も遠くなった時、突然痛みが薄くなりそれどころか気持ちが良くなってきた。
「あ…………は、あ」
死とは何て気持ちが良いものなのか。自由になれた上にこんな気分を味わうことが素直に嬉しかった。
思わず恍惚とした吐息を漏らした。
「ベリティスきれい」
誰かの声がする。まさか血と汚物にまみれた俺に言ったわけじゃないだろう。
でも何か変だ。目蓋を開ければ、すぐそこで茶色い瞳と出くわした。
若い娘だ。警戒から体が動き、彼女の手首を掴んで引いた。
俺はまだ死んでなかったらしい。この女が新しい買い主だろう。腹立たしさと絶望が噴き上がり殺意が湧いた。
だがそこで足が動くことに気が付いた。それどころか痛みが全く無い。訳が分からず軽く混乱していると、女が鬱陶しく話しかけてくる。無害そうな顔をして性奴隷を求めるとか何てハレンチな奴なんだ。軽蔑のまま突き飛ばすと、ベッドにバフンと跳ねた。
予想通り首輪が作動して体を鋭い痛みが駆け巡る。
「ぐっ」
心臓がおかしな脈を打ち今にも壊れそうだ。
すると突き飛ばした女が俺に跨がり、あろうことか服の下に手を差し込んできた。
「あ?!あ、あああああ!」
何なんだこれは!
女の手が俺の胸をまさぐると、痛みの感覚は消えた代わりに凄まじい威力の快感が押し寄せてきた。あまりに強烈で、これが快感だと理解するのに少し時間が掛かった。
「ああ、な、はあ!あ、う、くああ!」
とんでもない嬌声が自分の唇から駄々漏れる。これが俺の声なんて信じられない。
「ああ、ん、んんー!あっあっあっ」
抑えようとする理性も嵐のような快楽に吹き飛んでしまう。力が入らずに、身体中どこもかしこも敏感になり勝手にビクビクと震えている。
これは性的に並の男が感じる快感とは桁も種類も違った。人が感じる最上の部類。ただただ翻弄され、体は悦びに悶え、もっともっと感じていたいと堕落した欲望に支配される。
「痛いですか?」
「も…………や、あ」
頭の中は真っ白で、鼻にかかった甘ったるい声を垂れ流す生き物になっていたら、女の問う声だけはぼんやりと聞き取れた。声が真剣だったからだと思う。
澄んだ飴色を思わせる瞳は俺を心配そうに見ていて、彼女の力だろう荒々しい快楽の波からはかけ離れたものがあった。
快楽が収まった後には痛みもない、だとしたら彼女は俺の身を案じて不思議な力で傷も痛みも取り去ってくれたということだろうか。
だが散々な目に合ってきた俺は疑り深くなっていた。
まだ体は余韻でピクピクとして火照っているが、かろうじて思考は働いた。
この女、これからずっと俺に快楽を与え続けてよがり狂う様を見て楽しむ為に俺を買ったのか?
こんなことされ続けたら、今まで保ってきた俺という人格はどうなってしまう?
「は…………っ」
ふるり、と体が芯から大きく震えた。
違う、期待からじゃない。変わってしまいそうな自分に愕然とした。
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