word58 「夢 叶え方」⑭
きっと初めからこんな風に他人の為に黒いパソコンを使っていれば、泣き出してしまいそうになることは無かっただろう。
でも自分を慰めたい訳じゃないが、中々できることでも無いと思う。
けれど、今だからこそ分かる。自分の為にも他人の為に検索することが正解だったんだ。
彼女の悩みを知って、解決する方法も知ってしまっている以上、僕はまずこの検索をするべきだと思った。そうしてあげたい。僕にできる全力で彼女の夢を叶えたい――。
全力を出すということは当然、黒いパソコンを使うことである。黒いパソコンに頼った生き方がダサいという認識とは矛盾しているかもしれないが、自分の為に折原への助力に手を抜くのはかっこよくなることじゃない。
僕だけじゃ彼女の夢を叶えてあげられっこないし、今まであまり他人の為に使ってこなかった分誰かの為に使いたくなった……。
だから、黒いパソコンを使うことを選んだ。
でも……これで最後だ。この検索をして、折原の夢を叶えた後に僕は……。
いや、そのことを今考えるのはやめよう……。最終的に黒いパソコンをどうするか考えるのは後でいい。今はただ、この検索に集中だ。
僕はEnterキーを強く押した。
『折原裕実さんの歌手になりたいという夢を叶えるには約1ヵ月の間、下記の指示を正確に行う必要があります。また複雑な作業が多く、あなたがミスをする可能性が高い為、向こう1ヵ月の間は作業後、確認の為に「夢 叶え方」と再度検索することをオススメします。――』
そんな文から始まった検索結果は、何度もマウスのホイールを操作して文を進めなければ読めないほど長かった。
『まず初めに、あなたのスマートフォンを使って新しいメールアドレスを作ってください。よほど非常識な文字列でなければ何でも構いませんが、もし迷うのであればあなたのSNSの趣味アカウントであるポンカンから拝借して「ponkan.BPC.1234@~」とでもしましょう。』
『そのアカウントを使って折原裕実さんに連絡を取ってください。折原裕実さんのメールアドレスは――送信する日時は――送信する文章の内容は――』
『次にあなたの両親が使っているパソコンを借りてきて、「Orion Studio」というソフトをダウンロードしてください。「Orion Studio」とそのまま検索すると検索結果の最初に出てくる、音声編集ソフトです――」
どんな検索結果が出てくるか想像がつかなくって、かなり簡単な可能性もあるなんて考えていたが、黒いパソコンが示したのは大変そうな道のりだった。
ただ、それで気持ちが萎えたりはしなかった。1人の女子高生を歌手にするなんて、面白そうだとも思うからだ。
『折原裕実さんから送られてきた音声データを、先ほどダウンロードしたソフトで編集します。――』
『さらに映像のデータを作成します。新たに「 Video JJW」というソフトをダウンロードしてください。――』
『出来上がったデータを2月12日17時33分に折原裕実さんへ送ります。添える文章は――』
内容的にはどうやら折原が投稿しているという所謂歌ってみたの動画の再生数を伸ばすための計画だった。折原が歌った音声データに僕が手を加えて、折原を人気者にする。
先のことを今覚えても仕方ないので、僕はざっと流すようにさらに読み進めた。
後半になればより難しそうな指示があったが、その内僕は力が湧いてきた。今日までがダメだっただけで、まだ折原と付き合うことを諦めた訳じゃないからだ。
この検索を乗り越えて、言えない秘密が無くなり、胸を張って折原と接することができるようになったらまた改めて告白する。そのことを思えば何だって頑張れそうだった。
しかし底までマウスをホイールしたとき、僕は口を開けて固まった。最後に書かれていた文が僕をそうさせた――。
『全てが滞りなく終わると、折原裕実さんは大手音楽事務所にスカウトされて歌手デビューすることができます。』
そんな文章の下で、僕に確認を取る注意書きのように書かれていた言葉。他とは違って赤い文字をしていた。
『ただ、この指示を全て終えると折原裕実さんは通っている高校を中退して上京し、あなたと交際する未来は無くなります。』
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