word52 「髪の毛 誰の」②

 OK、OK。落ち着け僕。まずは一旦落ち着こう。すぐにこのEnterキーを押してしまうのは簡単だ。だけどそれじゃあ、スマートじゃないだろう。


 まずは結果の当たりとハズレについて頭の中で整理しようではないか――。


 誰のだったとしてもスクールカースト上位のJKの髪の毛、より詳細に個人の特定までしようとしているのには理由があるのだ。


 それというのも、スクールカースト上位の女子だって皆が皆可愛いわけではないし、僕の好みだってある。つまり今日僕の席の周りにいた4人ほどの女子にも、この子の髪の毛だったら嬉しくて、この子のだったら本当に何もせず捨てるっていう当たりハズレがある。


 当たりハズレの基準は、ぶっちゃけ顔だ。他の基準もあるけどほぼ顔、配点が一番高いのは顔。悲しいことに男から見た女の評価って顔が全てみたいなところがある。


 もちろん例外もあるけれど大体の男はそうだと思う。どんだけ性格が良くたって顔が悪くちゃ話にならない。男の言う性格が良い人がタイプってのは、顔が可愛くて性格が良い人って意味だ。


 てか、顔が可愛ければ大体のデメリットは、ギャップというメリットに変換される。風呂に入らないとか、下着を変えないみたいなだらしない性格だったとしても、美人なら問題ない。


 むしろ、それに興奮する男だっている。こんなかわいい顔してて……そうなのと……。


 まずは、1番の当たりから決めよう。誰だったら1番嬉しいか。そんな風に考えながら、今日の教室での出来事を思い出す。単純に好きな顔の順に並べるだけだから、ほとんど悩むこともなく僕は決めていった。


 1番の当たり、この検索結果のSSRは森さんに決まった。僕の学校ではお馴染みの森さん。男子だったら皆憧れる。最近誰かと付き合いだしたという噂も聞いたが関係ない、付き合いたい人ランキングではなく、この人の髪だったら嬉しいランキングなので、顔が1番かわいい森さんが1位。


 森さんのだったらマジでワッツァファックだ。正直こんな髪の毛1本でもイけてしまうかもしれない。黒いパソコンで飛びきりのエロ動画を見た後に、髪の毛1本で興奮するなんておかしな話だが……何故だか逆に興奮する。


 まこと性欲というのは面白い。持ち帰った髪の毛をひらひらさせながら思う。


 2番も隣のクラスのかわいい女子、佐々木さん。3番は同じクラスのかわいい女子、城戸さん。城戸さんに関しても彼氏持ちだという噂がある。しかも、相手は大人の男性らしい。街でスーツ姿の男性と歩いていたという目撃談がある。もしかしたらパパ活という奴かもしれない。それでもかわいいから今回は許す。


 最後に4番目、僕が今日席の近くにいたのを確認できたのはその子、児島さんで終わりだ。別に人としては嫌いじゃないけれど、今回の検索ではハズレ。理由は顔がかわいくないから。


 むしろ人としては好きなほう。誰にでも優しいイメージだから。打算で皆に明るく優しく接してるんじゃなくて、自然と自己犠牲ができる子に見える。けれど、顔があまり好みじゃない。細身なのもマイナス、だから申し訳ないけどハズレ。


 ハズレまで決めた僕は、今一度髪の毛を真っ直ぐに伸ばしておく。そしてその髪が、まるで神へのお供え物かのように、手を合わせた。願ったのは必勝だ。


 「髪の毛 誰の」と表示された画面を見つめて、心の中で児島さんに謝りながらEnterキーを押す。さあ、お前は一体誰の髪だ――。


「今あなたの机に置かれている髪の毛は、城戸 彩夏さんのものです。」


 表示された結果を見て、僕は無表情のまま口を開けた。


 おいおいマジかよ。ええっ、まさかの3番目の当たりだって。何だそのクレイジーな結果は、頭イカれてんのか。


 きっと全米が大爆笑する最高の結果に、さすがの僕も天を仰ぐ。そこは1番の当たりかハズレで来るべきだろと思う。それとも、全く予想してなかった他の人物だとか。面白くもないこの結果は最も好ましくなかったものだ。


 まあ嫌でもないけど……何とも言い難い……。


「はあ……」


 アホらしい……。僕は髪の毛を掴み、窓を開けると、溜め息を吐くように息を吹きかけて外へ飛ばした。夜の屋外に飛び出した髪の毛はすぐに、風景へ溶けて無くなる。


 本当にアホらしい。僕は何をしているんだろう。こんな好きでもない女子達でしょうもない遊びをしている場合じゃないだろう。


 そう僕が考えなければいけないのは好きな人だ。未だ僕の胸を締め続ける折原 裕実さん。


 彼女と初めて話したあの日から、僕と彼女との距離は全く縮まっていない……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る