word45 「もしも 世界に男が僕1人だけになったら」②
この黒いパソコンは超高性能だ。今更分かり切っていることを言うなという話だが、こんな驚くべきことも可能である。
ありえない世界をデータ上で再現して、そこで何が起こるかをありえないレベルの高精度でシミュレーションする。
初めてこういった検索をしてみた時にそう教えられている。詳しくは分からなかったけれど、要約するとそんな具合だ。とにかく人類ではまず無理なレベルで、条件の中でもっとも高確率で起こることを弾き出し、結果として表示する。
僕は数回だけこの「もしも検索」を利用したことがあった。
初めてやったのはあるニュースを見た日だった。同じ市内に住む中学生が先日、車に轢かれて、病院に搬送されたがすぐに死んでしまったというニュース。僕は家族と夕飯を食べながら、テレビに映った悲しい映像を見た時、箸の動きを止めた。
事故があった日からニュースにはなっていたけど、その日は残された両親の話や、同級生たちも参列した葬式の映像が放送されていた。
泣いている人や、亡くなった子との思い出を語る人達を見て……僕は、自分が死んだときはどうなるんだろうとも思ったのだ。
見ている映像と同じように悲しんでくれる人がいるだろうか……。葬式には何人の人間が来てくれて、どんな風に行われるのだろうか……。
気になった僕は夕飯を食べ終わるとすぐに「もしも 僕が交通事故で死んでしまったら」と黒いパソコンに入力した。
結果には、いろんな情報が表示された。僕が死んだ仮の事故の詳細から、加害者へ請求される慰謝料の額……葬式会場の名前と住所、参列者の名簿……授かる戒名……棺に遺体と共に入れられる物。
そして、その中のメッセージカードに書かれた文を見た僕は涙まで流した。
そこまでなろうとは思っていなかったのだけど、両親から若くして死んでしまった僕に宛てられた手紙や親友からの言葉を見ると、唇が震えて目が滲んだ。
「もう1度だけ会いたい」だとか「いつまでも友達」だとか……。
さすがにリアルが過ぎて……ちょっと不思議な体験でもしようと思っていた僕の予想とは違うものになった。
けれども、あれは良い体験だったと思う。黒いパソコンでしかできない良い体験だった――。
あとはもしも透明人間になることができたらだったり、もしも昔好きだった女の子に告白したらどうなっていたかなんてのも検索した。
どちらも僕の思考がしっかり計算に入っているみたいで、実際に僕がしそうな行動や反応が細かく書かれていたので、結果を読むのは面白かった。
自分の頭の中だけでは導き出されない答えは、より深い妄想の手掛かりにもなった。
――そして今日、「もしも 僕が空を飛べるようになったら」を検索した僕は悪い意味で期待を裏切られた。せっかくまた面白い妄想ができると思ったのに残念である。
だから僕はまた明日も、もしもを用いた検索をすることに決めた。
黒いパソコンを収納にしまえば、今度はどんな妄想にするかと考えを巡らせる。
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