word30 「折原さん 所属部活」①
検索するか……検索しないか……。
それとも検索しようか……検索しまいか…………。
僕はある検索をするかどうかで頭を悩ませていた。授業中、教室の中で黒板を見つつも頭の中はそればかりに支配されてしまっていた。
先生が書く文字の数や、開く教科書のページで花占いのようなことをして、あることを検索するか否かについて考える。授業が始まってからずっと、そんなことをしていた。
あることと言うのは他でもない。折原についてのことだ。
ひょんなことから魅力を知ってしまって、未だ全く衰えず僕の胸を悩ませる彼女。話したことも無ければ、同じクラスでもないのに恋をしてしまっている相手である。
そんな彼女に関する検索として、するか悩んでいるものというのは、簡単に言ってしまえば出会いのきっかけを作れないかというものだ。検索ワードにすれば「折原さん 仲良くなり方」とかだろうか。
理由はあまりにも接点がないからだ。同じ高校で同じ学年でも、隣のクラスでさえないならほぼ他人。普通に生活していて自然と話せることなんて無い。
ちょっとしたものでいいから、黒いパソコンにきっかけを生み出してもらわないとこのままずっと距離は縮まらない気がする。僕は生まれてこの方ずっと奥手だから、そうなってしまうのだ。
だけど、それも情けない。男として恥ずかしいことだ。アメリカの高校生なら廊下で目が合っただけで「Hey baby!」とか言って手を上げそうなのに、僕は道具頼りなんて……。
もっと簡潔にすると「折原さん 付き合い方」とかになるのだが、少なくともそれは絶対にしたくなかった。なるべく何にも頼らず、後ろめたいことを生み出さず、純粋な恋がしたいから。僕の心がそれを望んでいるから。
だから、折原との恋に関することはなるべく黒いパソコンに頼らないと決めていたのだが、本当にあまりにも接点が無くて僕は話すきっかけくらいなら黒いパソコンに頼ってもいいのではと思い始めていた。
はあ、きっかけさえあれば……。何かきっかけさえあれば……。
僕は膝の上で掴んだシャーペンを強く握った。
何の生産性もない心のもやもやをずっと抱えているくらいなら、プライドを捨ててさっさと検索してしまったほうが合理的だと思うが、これについて悩むと結局やっぱり黒いパソコンというチートアイテムに多くを頼るのは嫌だという結論に辿り着いてしまう。
黒いパソコンに頼らずとも何かでどうにかしてきっかえさえ作れれば、僕は上手く話せる自信があるのだ。いつそのきっかけが来ても大丈夫なように脳内シュミレーションは入念に行っているから。
とにかくきっかえさえあれば……きっかけさえあれば……。
――ふとするごとにそんなことを考えながら送る学校生活。5限目まで終えて最後の6限目までの休み時間に突入した。
今日の6限目は総合の授業、前から決まっていた内容は2年生の全組が多目的室に集まって進路についての話を聞くというものだった。
楽なようなめんどくさいような。まあ小テストがあるような授業よりは随分マシなその時間に向かって僕は友達と共に廊下を歩く。
「はあ……あとは適当に座っとくだけで帰れるな……」
「今日家帰ったらさ、さっき教えた動画マジで見てみろよ。くっそ面白いから」
「ああ。忘れんかったら見とくわ……。何ていう名前だったっけ?」
「だから――」
脳の容量をほとんど使わない会話をしながら、僕は折原を探すといういつもの廊下の歩き方をした。
「正直に言うと俺最近さあ、太ってきたんだよね」
「元から痩せてないやん」
「ああ、やっぱ分かんない?顔もちょっと俺からしたら太くなったんだけど、その理由がさ……夜食」
「そりゃ夜食くったら太るよ。でもうめえんだよな。分かるわ」
「いやでも前までは夜食くっても全然大丈夫だったんよ。でもさ夜食にお好み焼き食べるようになったら目に見えて変わったね。やっぱ粉モノ太るって本当だわ」
「…………。お好み焼き!?夜食に!?」
「うん」
「自分で焼いて食うの?」
「うん。めっちゃうまいの作れるで」
「へー……ってあれ?この行列何だ?」
「さあ……たぶん多目的室がまだ開いてないんじゃね」
「そっか」
友達同士の会話を聞きながらぼーっと歩いていた僕も目の前に見えてきた列の最後尾に並ぶ。
立ち止まって腕を伸ばすと気持ちの良いあくびが出た。6限目の授業が始まると、寝てしまうかもしれない。
しかし、次の瞬間に薄っすら涙を浮かべる目で後ろを見ると僕の眠気が吹き飛んだ。
僕の後ろに並んできたのが折原だったからだ。
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