word26 「学年で1番 歌上手い奴」③

 イメージで考えるなら誰が歌が上手そうだろうか。僕は検索を実行する前に考えた。


 僕の勝手なイメージでは顔が良い人のほうが歌が上手い気がする。頭の中でカラオケで歌っているところを想像してみるとイケメンやかわいい子のほうが達者な歌声が似合う。実際に経験上でもそんな気はする。


 だから、クラス1のマドンナであるあの子かなとか、バスケ部のあいつとか上手そうだなみたいなことを考えて……僕はワクワクしながら結果を表示した。


「人が上手いと判断する感覚に近い最新のカラオケ採点機械とあなたの好みから総合的に判断した場合、あなたが通う学校の2年生で最も歌が上手いのは……折原 裕実さんです。」


 もしかすると今日一緒にカラオケに行ったサッカー部のあいつかもとも思ったが、黒いパソコンが教えてくれた名前は違うものだった。


 折原 裕実ひろみさん……っていうとどの子だったっけか……。


 そしてその名前は僕にとって馴染みのない名前であった。名前を見ても顔がすぐには頭に浮かんでこない。学年が同じであることは知っている、名前に見覚えはあって1年生のときは同じクラスだったことを覚えているからだ。


 たぶんあの子だというのは分かるけれど自信が無い。ほとんど関りが無い女子のグループに所属していた子だったはずだ。


 僕は男子とは広く交友しているほうだと思うけど、女子となると限られた人数としか交友関係はない。そんなものがあったらちゃんとした彼女の1人くらいいる。だから話したことのない女子はたくさんいて、その中でも遠い存在となると顔と名前が一致していなかったりする。


 向こうが目立たないとか言ってるのではなくて、たぶん折原の方も自分のことなど知らないのではないかと僕は思っていた。


 よく考えてみてもピンと来ない。やってしまった。折角検索したのに知らない子だったので驚きや意外といった感情がない。知っている奴だったなら何かしらの楽しみはあったんだけど。


 1年の頃のクラス写真でも引っ張り出してみようか。いや、そもそもこういう時にこそ画像検索を使えば良かったのか。ううん、それは逆に顔だけ見せられたところでこの子誰だっけとなるか。


 僕は拍子抜けして、まあやっぱり学年で1番歌が上手い奴でも文化祭でライブとかはせずに潜んでいるものなんだというちょっとした結果だけ胸に閉まい黒いパソコンを収納の奥に戻す。


 しかし、その手を不意に止めた。


 待てよ。その折原さんが歌っているところを動画検索すれば見れるはず。学年で1番と黒いパソコンに評されるその歌声は見ておきたいな。


 回れ右した僕は机の上にパソコンを置いた。今日の深夜に日付が変わったらすぐにそれを検索することにした。顔も知らぬ女子のカラオケを見る。


 時計の針が12を差すまではあと2時間ほど、黒いパソコンの上にタオルと近くにあった教科書を乗せて、漫画でも読みながら待った……。

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