word16 「魔法 習得方法」②

 僕は丸まった紙くずを前にして床に座った。胡坐をかいて腕を組み、気の持ちようも勝ち誇ったもので。


 お前の命もあと1日だ。せいぜいそこで這いつくばっていろ。そんな気分だ。


 明日には手を触れずして紙くずをゴミ箱に入れてやる。もしくは炎を出して灰にしてやろうか。指をピロピロさせながら紙くずが泣いている姿を想像する。


 ――と、それよりもだ。もっと嬉しいのは魔法がこの世に存在していたことだ。紙くずが処理できるなんてことよりもそっちに意味がある。僕は明日魔法使いになれるのだ。


 明日、今度は魔法を使う方法を検索して、実際に致す。


 いや鍛錬が必要と書いてあったから明日は早いかもしれない。けれど、その内。誰もが夢見る魔法使いになれる。


「マジかよ……」


 思わず興奮が声に出た。


 それから僕の精神年齢の低下は加速して小学生に戻ったくらいのテンションで魔法使いについての妄想とトレーニングの予習が始まった。


 そもそもリアル魔法ってどう使うんだろう。杖は必要だろうか、必要だとしたらどのサイズだろうか。創作の類では、その辺に落ちてる木の棒サイズの杖と、ロッドと呼ばれるようなでかい奴がある。


 ボールペンを振ったり物干し竿をかっこいい感じで持ったりしてみる。


 もしかすると、魔法陣が必要なタイプかもしれない。だとしたら綺麗に円を描く練習とかもしといたほうがいいだろうか。


 でもさすがにそれはちょっとめんどくさいな。


 次の日になるまで僕の妄想は続きに続いて……。


 魔法使いの生き残りでもない僕が突然使用した魔力を察知して、今も世界のどこかで隠れて暮らす魔法使いたちが僕を捉えに来る物語まで妄想した。


 少しヤバい。でも、この先は強制的に魔法学園で若い魔法使いたちと魔法を学ぶ人生を送る。それも悪くないだろう。もしかしたら僕にはとてつもない魔法の才能があるかもしれないし……。


 そして次の日、0時になってすぐ。僕は黒いパソコンで予定通りの検索をした。


「魔法 習得方法」


 炎の魔法だとか水の魔法だとか限定して検索したほうが良いかとも思ったが、それは黒いパソコンなら色々教えてくれると信じてこのワード。


 もう芽生えた気がする自分の中の魔力を感じながら、紙くずが床に転がったままの部屋でEnterキーを押す。


「ある魔法を習得するには、その魔法を発動する姿をイメージしながらひたすら念じる精神修行を行う必要があります。魔法を発動するのに重要なのは念力と精神力。魔法は脳と心で使うものです。そして多くの魔法は、その習得修行に最低でも10年は必要になります。ちなみにあなたが今思い浮かべている物体を浮かせて操る魔法の場合では平均50年を要します。」


 ええ、マジかよっ。ウィン〇ーディアム・レビ〇ーサでも使えるようになるのに50年もいるのっ。


 騙された。詐欺じゃないか。口をハの字にして見えた文に驚く僕へ黒いパソコンは追い打ちをかける。


「ちなみに炎を出す魔法なら平均80年です。あ、でも毛を生やす魔法なんかは5年くらいでできますよ」


 は?おもんな。この詐欺パソコンめ。ぬか喜びさせやがって。50年や80年はさすがに長えよ。


 僕からしたら今日はちょっとイタズラだった黒いパソコン。なんだか笑われているような感情が奥に見える。


 それに腹が立った僕は結局筋肉を使って紙くずを拾い上げ、ゴミ箱に強く投げ捨ててから、いじけて眠った。

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