word10 「あの友達 ホモなのか」③
次の日から……草壁は毎日のように僕の腕時計を見せてくれと、僕の腕をぎゅっと掴んだ。脇の下で抱えるように腕を固定して。
来る日も来る日も……来る日もだ。
初めはよっぽどブランド物が好きなんだなと特に変には思わなかったけど、3日4日と続くと気持ちが悪い。何しろ男でブランド物好きってあんまりいないし。
しかも、前は香ってこなかった匂いが草壁に近づくと香ってきた。腕を掴まれるときに草壁の制服が目の前に来ると香る。運動部らしい制汗剤の匂いとかではなくて、経験のない匂い。
なんの匂いと言われると表現に困る。とにかく甘くて良い匂いだった。
僕は気づけばその匂いを楽しみにしていた。誰から香るとか関係なく良い匂いだったから。もし僕が女だったらこんな良い匂いがする男がいたら惹かれてしまうかもしれない。
だから僕も香水を買ってみようかな、どこの香水だろうと興味を持っていた……。
でも、なんだろう。何かがおかしい。
「今日も腕時計見せてよ」
「……ああ」
その日も僕は何の抵抗もすることなく草壁へ腕を委ねた。筋肉質な腕が絡みついて、香ってくる甘い香り。じっくりと腕時計を見る草壁を、よく飽きないなと思いながら見つめる。
草壁の顔はいつもと変わらず目が細くて芋っぽい。けれど見せる表情は前と違うと思う。真剣で動物的と言うか野性的と言うか……。
これってこの腕時計を譲ってくれないかと遠回しに言われているのだろうか。いや、さすがにそれは図々しいよな。そんなことも考える……。
考えながら見つめていると、不意に草壁もこちらを見た。真っ直ぐに目が合う。そして、腕をより草壁のほうへ引き寄せられた。力づくで。
「ねえ。この前言ってた女の子に興味ないって本当?」
さらに耳元で囁かれるように言われた言葉。周りのクラスメイトに聞こえない声量で。
その時僕はようやく気づいたのだ。違和感の正体に。
あれ?こいつもしかして……?
「え、うん、本当だよ……ホント」
ほんのり顔を赤らめていた草壁をその場は上手くごまかして、その日の学校生活を乗り切った僕は急いで家に帰って急いで部屋に入った――。
疑問に思ったことをすぐに黒いパソコンで調べるためだ。いつものこのパソコンでないと調べられないこと。
「草壁 ホモなのか」
僕は入力した。でもたぶん調べるまでもなく十中八九そうだ。まだ胸をざわつかせているあの草壁の表情。あれは男の顔だけど女の……。
だけど確定させたいから調べたい。勝手な妄想で彼をそんな風な目で見てはいけない。だから僕はEnterキーを叩いた。
「あなたのクラスメイトの草壁力也君は同性愛者です。」
まじか……。いや、やっぱりそうだよな。
驚くと共に、こんな身近に本当にいるものなんだと関心が高まる。
そうか、そうだよな……。
今までのことを思い返して、あの時もあの時も僕は性的な目で見られていたのかと口を開けて固まった。
ってか、ちょっと待てよ。この前検索した「告白したら付き合ってくれる人 人数」の結果が2人ってもしかして1人は――。
僕の首筋の辺りに一粒の汗が伝った。
そして今回の黒いパソコンはまださらに文を表示する。
「ちなみに隣のクラスに在籍する夏尾君も同性愛者です。あなたの学年の男性同性愛者は2人です。意外と身近にいる者ですよね。」
そういえば前にそんな噂を聞いたことがある。隣のクラスの誰かにホモの疑いがあるとか無いとか。
へー……そっか……。
僕はそれから普通のスマホで調べて同性愛者は1.5%くらいの割合でいることを知った。100人いたら1人か2人はいるということだ。
そりゃうちの学校にも数人いるわ。
そのまま同性愛者への接し方なんかも勉強して、今日知ったことを他人に知らせることはしないことも誓った。
次の日から僕がD&Gの腕時計を付けて学校に行くことは無かった。
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