word10 「あの友達 ホモなのか」①
僕は自分磨きトレーニングを毎日続けていた――。
筋トレにボイトレ、有酸素運動。そして小顔体操やら髪のセット方の勉強。家族にこうやってモテる為の努力をしているのがバレるのは恥ずかしいので自室でこそこそと励んだ。
ボイトレは布団を被って枕に顔を埋め込んでやった……だから、終わった後はかなり息苦しい。
やり方は当然どれも黒いパソコンから教わったもの、知らないけどたぶん優秀で僕の体に合っている方法。それが分かる証拠は僕の体が目に見えて変わってきたからだ。
まだ自分磨きを決めてから経ったのは1週間とちょっと。たったそれだけの期間で随分と体の調子が良くなった。朝の目覚めもスッキリしたものになったし、だらしなかった腹筋も、力を入れて角度を合わせるとほんのり割れてきた気がする。
そんな疲れるけど確かな充実感を得る生活の中で同級生の恋愛事情を調べたりなんかもした。すごく気になることだ。誰がどの子を好きだとか、現在あの子に彼氏がいるのかとか。
けれど……そのくらいの質問であればぶっちゃけあんまり想像とは違わなかった。もちろん驚く事案もあるけれどわざわざ黒いパソコンに聞くことでもなかった。
もっと言うと気分を害することが多かった。
彼女のいない僕にとっては人の恋愛事情なんてくそでしかなかったのだ。
リア充爆発しろっ。くっそ。消し飛んでこの世からいなくなれっ。シャーペンをノックするとき毎回反対にしちゃってチクっとなれっ…………検索する度に思った。そんなこと思いたくないのに。
結局何が言いたいかを言うと、知らなければいいこともあるということだ。この世界には。恋愛なんて特にそれだ。分からない要素があるから楽しいのである。
だから、僕は今日という日に一旦同級生の恋愛事情を検索するのはやめることにした――。
――日課になったトレーニングを開始する前、僕は自室で今日も黒いパソコンと向き合った。
あと1度だけ恋愛について検索して……次はかっこよくなって自分に自信を持てるようになった後でまたにする。何ヵ月後か、1年後か、いくらかかろうとも満足いくまで自分を磨いてからだ。
そう決めた。
「絶対そうするぞ」
そして、最後に1度だけする恋愛関係の検索も既に決めていた。
「告白したら付き合ってくれる人 人数」
これだ。
自分の今を知ってこれからのトレーニングのモチベにすると共に、次に同じ質問をするときの比較対象。自分の現在地点を計るのだ。
前に自分を好きな人と検索したときは0人だったので下にいることは分かっているのだが、告白したら付き合ってくれる人くらいなら数人はさすがにいる気がする。
そして「一覧」ではなく人数というのも肝だ。もしも良い人の名前があれば僕は楽してしまうかもしれない。普通にかっこよくはなりたい。それに知りすぎることは良くない、人数だけくらいがちょうど良いと思った。
僕は誤字が無いか確認しつつ黒いパソコンのキーボードを叩いた。
まあただ現状を知るだけ。いなければそれはそれでモチベに繋がるさ。そんな気持ちで――。
「あなたが告白するとOKをもらえる人数は2人です」
僕は検索する前と後で表情を変えなかった。どういうリアクションを取るべき数字なのかすぐには分からなかった。
まあまあ。うん。たぶん少ないけど0じゃなかった。うん。
ここからだ。ここからこの数字を10にでも100にでもしてやろう。
その日のトレーニングは昨日よりも多めに頑張った。
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