word9 「歌 上手くなる方法」
窓から入ってくる風が気持ちの良い日の午後、僕は自室で鼻歌を歌っていた。そよ風に目を細めながら、体をほぐす体操なんかもしたりして。
かっこよくなることを決めた次の日、さっそく始めた筋トレで体のあちこちが固まっていて、それをほぐすことは気持ちが良かった。
家族は皆外出していて、今は家に僕1人だけ。気分が良くなってきた僕は鼻歌からさらにアカペラでの1人カラオケに移行した。
「どうして~もう1度結びなおせなかったんだろう~~」
好きな歌手の好きな歌、発せられる僕の声は中々に達者で、そこそこにかっこいいではないか。
どんどんハイになっていった僕のカラオケは、いつの間にかそれが目的になって。体操はやめてマイク代わりにボールペンを握っていた。
普段適当に聞いている歌の歌詞をスマホで検索したりもする。聞き取れていなかった部分の答え合わせをして、自分の歌声をスマホのボイスレコーダーで録音したりもした。
そんな時、歌っていた曲の音程が高くなるところで、僕は声が出ずに裏返った。誰もいないけれど、間抜けな声が出ると少し恥ずかしくなる。
好きな曲だからよくこうして歌うのだけれどいつも同じところが上手く歌えなかった。自分なりに声の出し方を変えてみても、掠れたり音程が外れたり。
こういう時には歌っている歌手と自分の喉の生まれ持った出来の違いのせいにして、自分ももっと気持ちよく歌える喉に生まれていたらとナイーブな気持ちになるのだ。
だけど、今の僕はそれで終わらない。できないことがあればやり方を聞いてみればいいのだから。
そう、黒いパソコンに。
僕はさっそく今日の検索ワードをそれに決めた。歌が上手くなったらかっこよさというステータスも上がると思うし、悪くないワードを見つけた。
「歌 上手くなる方法」
普通のパソコンでもよく検索されているし、いくつか望むようなサイトがヒットするワードだと思う。僕もスマホで検索したことが数回ある。友達とカラオケに行く前や行った後に検索した。
でも、普通に見つかるサイトだとイマイチ有用なことが書かれていない。分かるような分からないようなボイトレなんかを紹介されてしっくりくることなく、最終的にはボイトレの教室やらカラオケアプリを紹介されるのだ。
歌が上手くなる方法ってきっと存在するのに割と業界で秘密にされてることだと思う。
だが黒いパソコンは期待通り、教えてくれた。
「まずあなたの姿勢を正すことから始めましょう。両手を真っ直ぐに伸ばしてから、そのまま下ろしてください。その状態で顎を少し前に突き出して――」
細かく指示された検索結果、言われる通りのことを真っ直ぐな姿勢を維持したまま横目で読んでいって実行すると、本当に気持ちが良いくらいの高音ボイスが自分の喉から発せられた。
まるで別の喉と入れ替えられたかのように。これなら女性の曲でも歌えるんじゃないかと僕は思った。
それはボイトレのようなもので。僕はこれから筋トレにプラスでボイトレも続けることになった。
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