word4 「幸せ 今すぐ」②

 「幸せ 今すぐ」という検索ワード。かなり人任せならぬパソコン任せな質問である。


 どこでどんな風なタイプの幸せを見つけてきてくれるのか。そもそもこんなアバウトな検索で答えが出るのか。


 そう思いながらEnterキーを押した僕は期待しながらグルグルが消えるのを待った。得られる幸せの量は1から100まで可能性があると思う。こういう時は100のほうが起こることを期待してしまう。思いもよらぬ魔法みたいなことが起こることを……。


 画面が切り替わる。


「ちょうど今からあなたが最寄りのコンビニへ行けば良いことが起こるでしょう。あなたが思うペースで歩いて、あなたが思う物を買ってみてください。」


 僕はそれを見ると、急いで部屋を出た。


 雑なパーカー姿に財布だけを手にして。正直帰ってきてからすぐに、しかもこんな格好で外には出たくなかったが、黒いパソコンに幸せを求めた結果に今から外へ出ろと言われたら外出せざるを得ない。


 僕の家からコンビニは近かった。歩いて10分もかからないくらいだ。静かなほうの住宅街に住んでいるけどそのくらい。


 そんな距離をポケットに手を突っ込んで歩く。誰か知り合いに会ったりしないか不安で、ポケットの中の手はぎゅっと握ってしまっていた。


 そして何事もなくコンビニへは到着する。


 そうしたは良いものの、一体これからどんな幸せが起こるというのか。


 今回の黒いパソコンからの答えは凄くアバウトだった。僕がアバウトの質問をしたせいだろうか。僕はどんな幸せが起こるのかを全く教えてもらっていない。


 とりあえず言われた通りにカゴを持って店内を歩く。自分が好きなように買えと言われたので、なるべく普段通りの感じで。


 とは言ってもここからコンビニという場所で大した幸せも起こりそうにないけれど、どこまで期待していいのやら。


 そのコンビニで1番好きなパンと2番目に好きなパン。ざっと見て選んだ新発売のジュース。そして、丁度買わなきゃいけなかった毎週読んでる漫画雑誌。さらに、これも買い忘れていたシャーペンの芯。あとは、見かけて無性に食べたくなったソーダ味のアイス。


 それらが入ったカゴを持って僕はレジに向かった。


「いらっしゃいませ」


 店員に会釈してカゴを渡す。店員がレジ打ちを始める。


 まだ何も良いことは起こらない。まさか、レジ打ちをする店員がひそかにファンをしている好みの女性だということがそれじゃあるまいし。さすがにな……かわいいけども……。


「820円になります」


 僕は1000円札で支払って、小銭を受け取る。かわいい定員がいつもよりも丁寧に小銭を渡してくれた。手が触れられて嬉しい。


 けど、これも違うはず。


「それと現在700円以上お買い上げでくじが引けるキャンペーンをやっておりまして……」


 きたっ……。これか……。


「1枚どうぞ」


 店員がくじ用のBOXを僕に向けた。絶対これだ。僕は気合を入れて1枚の紙を掴んだ――。


「おお。おめでとうございます!そちらの商品お持ちしますね!」


 

 ――コンビニから出た僕はなんとも言えない顔をしていた。手には購入額以上に膨らんだビニール袋を持っている。


 当たった商品はカップラーメンだった。かなり良いやつではある。値段もカップ麺の中では高いし、味も旨いと評判で品薄になるほど。量が多いのも男子高校生には嬉しい所だ。


 でも、この程度じゃなあ……。思っていたのと違う。嬉しいんだけど嬉しくねえよ。


 普通に買い物に来たのだったら喜んでいいおまけだが、今回の外出の期待度からしたら随分期待外れな結果だった。


 くじを引くときは大きく射幸心が煽られたが、よくよく考えてみればコンビニくじが検索した結果の幸せという時点でショボい。そもそもこういうくじって本当の当たりは応募券とかを引いてハガキを出した先にあるのだ。


 僕は家に着く前に買ったアイスの封を開けて、ため息を吐きそうな口を塞いだ。当たりを引いたはずなのにハズレたような気分だった。


 頭をきーんとさせながら急ぎ足で食べたソーダ味のアイス。食べ終わるころに再び部屋に戻ってきて、木の棒をくわえたまま黒いパソコンの前に座る。


 また片付けておかなければ。今日のは質問の仕方が悪かったという自分の責任でもある。明日はもっと良い検索をしよう。


 黒いノートパソコンを折りたたもうとする。その時だった。操作してもいないのにパソコンの画面が切り替わった――。


「幸せなんて己の受け取り方次第。幸せなんて探せばどこにでもあるんですよ。」


 検索した時と同じような文の表示。


「え」


 僕は驚いてくわえていた木の棒を口から落とした。転がり落ちる棒が止まると、そこには「当たり」の文字。


 それが初めて何も言っていないのに、黒いパソコン側から話しかけてきた瞬間だった……。

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