第27話 イーコ・ブールとの死闘
太陽の照りつける砂浜でニャン吉とペンギンのイーコ・ブールの死闘が始まる。
潮風、静かに砂浜に打ち寄せる波。ニャン吉とイーコは僅かな距離を隔てて対峙。
「オホホ、はじめまして、あたしはイーコ・ブール。気軽にイーコちゃんとでも呼んでちょうだいな」
「にゃんと! またオカマかにゃ!」
「あたしはメスよ!」
砂に片脚を突っ込むイーコ。彼女はそのまま砂を蹴り上げるとその砂が空中で固まり、弾丸となってニャン吉へ放たれる。
「早いにゃ!」
ニャン吉はロウソクが溶けたような柔らかい動きで弾丸をかわす。
「あんたこそ何その動き! あたしの
イーコは脚が止まった。溶けた蝋人形のようなニャン吉の動きに戸惑ったのである。
その隙をニャン吉は逃さない。猫叩きでイーコを攻撃する。イーコの足元辺りの砂浜から黄色い光の柱が立ち上る。
「なあんと! この猫畜生め!」
イーコは絶叫し、大きく海側へと飛び退いた。水飛沫を上げ海に飛び込む。
ニャン吉は砂浜をザッザッザッと音を立てながら駆け、海から上がったイーコに急接近する。
「甘いわ!」
突如足元をふらつかせるイーコ。ニャン吉が間合いに入り、その顔を引っ掻こうと爪を振るうが……、イーコは水の流れるように滑らかな体捌きで毒の爪を避けた。
「にゃ!? にゃんと!」
「そーら」
勢い余ってイーコの横でよろけるニャン吉。体勢を崩したニャン吉の首めがけて、両のヒレを重ねてイーコはヒレを振り下ろした。
「へし折るわ!」
だが、蝋人形が溶けるが如く柔軟にニャン吉の腕がニュルッと首の後へと伸びてきた。
ゴンと音を立てニャン吉の腕にヒレが当たった。ニャン吉の巧みな防御にイーコは「ちょっと、キモいじゃない! あんた溶けるのね」と悪態をつく。
「うるさいにゃ! 酔っぱらいみたいにゃ動きしてにゃ!」
にやりと笑うイーコは、先程みせたふらついたような足運びをみせた。迷惑な酔っぱらいがフラフラするような姿で舞い、砂浜でザッザッと音を立てる。
「ウフフ、これがあたしの必殺・リズミカル千鳥足よ」
「ふざけんにゃ! どふろくペンギン!」
その言葉にイーコは青筋を立て「何がどふろくペンギンよ! ホント、失礼しちゃうわ!」と言い返す。さらに「猫も杓子も糞だらけね」などと悪態をつく。
ニャン吉が爪でイーコを引っ掻こうと左右上下から手を出すが、酔いどれペンギンに触れることすらかなわない。
酔っぱらいみたいにフラフラするペンギンと、気味悪い動きでクニャクニャ蠢く白猫。傍から見ると中々の衝撃映像である。
このままでは埒が明かないと判断したイーコは、海に飛び込んだ。クチバシの中に海水を含むと、ニャン吉の方へ口から水鉄砲を飛ばした。
「汚にゃ!」
溶けた蝋人形をも超越し、液体の如く体を自在に動かし水鉄砲を避けるニャン吉。
「な……!? ええ!? 当たったと思ったのに……」
猫は液体であるような柔軟な動きに翻弄される。
その時、沖から声がした。その声は、海面を滑るように進むヨットからしてきた。
「お〜い、イーコ! 隣の島が空いたぞ! 例の強敵、真珠あああが適応して去っていった」
「何ですと!? ちょっとタイム、停戦よ!」
「にゃんと!」
イーコは突然の情報にニャン吉へ停戦を申し込む。無駄な戦いを避けることかできるため、ニャン吉もそれを受け入れた。
ヨットからお迎えがきた。イーコは、付き人のスーツ姿の男に迎えられヨットに乗り込む。
「サヨナラ! クソ猫」と捨て台詞を吐くと、数名の仲間と共に海の向こうへと去っていった。
イーコは口をヒレで押さえると、舌舐めずりし上目遣いでまだ見ぬ島を思った。鼻の穴を膨らませ「イッイッイッ」と嫌らしく引き笑い。
「にゃんだったんだ……」
椰子の木陰からニャン吉の仲間たちが出てきた。骨男がニャン吉の肩をポンと叩く。
「あいつらぁ強敵だな」
「にゃん」
――その頃天国のビーチでは。
元番犬だった者たちが巨大なモニターに映された『番犬TV』を観ていた。
ケルベロス五世が牛の
「俺は番犬TVをこうやって観るのは初めてなんだが、今回注目すべき所はどこだろうか。牛頭十二世殿」
「ムォーム! ……素直に、『モー』って鳴いたほうがいいな。……やはり目を引くのはビッグ5とかいう番犬候補の存在と恒例のハンターを誰がやるかだな」
「やはり、ビッグ5の中村ニャン吉と山田もっさんは注目されているだろう?」
「もう! そうだな。後はビッグ5の3人。生贄のセカンドペンギン、イーコ・ブール。不意打ち貝、真珠あああ。礼節重んじる
ガムをクチャクチャ噛みながらネプチューン七世が番犬候補についてまとめた紙を持ってきた。こちらも青地にハイビスカスのアロハシャツを着ている。
ネプチューン七世はにやりと笑うと番犬候補の載った紙にガムを吐き出し包む。すると「どうぞ」と物腰穏やかにケルベロス五世と牛頭十二世へポイッと投げ渡す。
困ったように笑いながら包み紙を開こうと四苦八苦する牛頭十二世。
「も〜う、こんなことされたら困るぞ」
「牛頭十二世殿! ここは怒るところだ!」
『ビッグ5のデータ』
『悪知恵の化身・邪王猫のニャン吉』
『傍若無人・薄ら笑いのもっさん』
『人柱の芸術・セカンドペンギンのイーコ』
『騙し討ち貝・大砲のあああ』
『悪意ある道徳・お礼参りのジワジワ』
ケルベロス五世は険しい顔でにらみながらネプチューン七世に解説を求めた。
「まずはニャン吉、彼は悪党外道の四面楚歌作戦で邪王猫の渾名をつけられたのは有名ですね」
「次にもっさん、彼は人の話を聞かずに1人で暴走する柴犬。その激しさから傍若無人と呼ばれています。それから柴スマイルの薄ら笑いが憎たらしいと定評があります」
「次はペンギンのイーコ。まずはファーストペンギンについての説明ですが、海に最初に飛び込む勇気あるペンギンのことです。しかし、イーコはセカンドペンギン。誰かを海に蹴り落とし安全を確かめてから海に飛び込む性根の持ち主です」
「次は貝のあああです。こいつは相手を油断させていきなり貝の中から真珠を大砲みたいにして砲撃してきます。座右の銘は『五十歩百歩より一万歩』」
「このトンビは1番番犬に近いと言われています。何より、道徳と言っては相手を卑劣な手段で倒すような奴ですから。礼儀を教えてやるとか言って顔にペンキを投げつけて財布を盗んでいくのです」
「……番犬候補はやっぱりろくな奴がおらん」
誰にも聞かれないように小声でそう言うと、辺りを見回し元番犬たちを見たケルベロス五世。
「もう! 次にハンターの件だ。誰がやるのか」
ネプチューン七世は「それならそろそろ閻魔が刺客を放ちますよ」と2人に番犬TVを観るように促した。
閻魔の宮殿では、軍人の鬼が呼ばれていた。
「では、頼んだぞ。
「はい! この忠太郎に任せてくださいでちゅー」
今回は鼠の忠太郎が派遣されるらしい。忠太郎は青い偽の首輪をつけて水地獄へ紛れ込んだ。
――ビッグ5という番犬有力候補が明らかになる。ハンターの存在もまた明らかになってきた。
『次回「さかにゃが美味しいにゃ」』
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