第14話 閻魔帳の化身・三世レモン
鬼に追い詰められたニャン吉は、地面に投げつけられ絶体絶命であった。だが、その瞬間に大地に植えた奇跡の種・
1億年に1度できると言われている最上物の閻魔帳の種である三世。それは不思議なレモンとなった。その力は如何ほどか。
レモンの植物は下から伸びた根っこでニャン吉を抱えている。紫色した1つ目でニャン吉を見ている。
「御主人様、あなたが私を植えて育ててくれたのデスネ」
「そ、そうだけど……お前喋れるにゃんか!」
「ハイ、私は閻魔帳の種デス。言葉が分かりマス」
鬼たちは驚くべき現象を目撃し、ただその場に立ち尽くしていた。それも束の間、我に返ると今度は総出でニャン吉に再び襲いかかってきた。
「また植物かあ。金の光なんずで威嚇しおって」
ニャン吉を植物とともに木の棍棒で横殴りにするが……空を切る。捉えたと思ったものは植物の残像であった。
消えた植物に鬼たちが戸惑う。
「き……消えた!?」
山の急斜面の頂上付近から抑揚のないのに怒りが伝わる声が響いた。そちらを鬼たちは見上げる。そこには、例のレモンとその根っこに抱えられたニャン吉がいた。
「お前ら、御主人様に手を上げたナ」
植物は全く躊躇せずに頂上から鬼の包囲網のど真ん中へ飛び降りた。パチンとムチで地面を叩くような着地音がすると、目にも留まらぬ速さで激しく数人の鬼相手に根っ子をムチのようにしならせ叩いた。鬼の皮は剥げ、頭に当たれば髪が禿げ。
恐れを抱いた鬼たちは遠巻きにし、石を投げ攻撃しようとした。それがどうしたと植物は一瞬で間合いを詰める。
根っこで鬼を掴んでは投げ、掴んでは投げる。戸惑う鬼にはムチを飛ばし、遠巻きにしてくる鬼には花の口から種をミサイルのように飛ばして撃った。頭の蔦を相手に絡め動きを封じると、ゴンッと釣鐘を突くように頭突きを入れる。逃げる鬼には目から紫色のビームを出して吹き飛ばす。
1分とかからず30人いた鬼は全滅した。逆転劇などという生易しい言葉ではこの状況を表せない。ねじ伏せたというべきか。
ニャン吉が斜面の頂上から飛び降りると、植物が歩み寄ってくる。植物は無機質な声で話しかけてきた。
「御主人様、私は閻魔帳の種から生れてきマシタ。三世という品種デス。御主人様は何という名前デスカ?」
「ニャン吉だにゃん」
「ニャン吉様デスネ。これからは、ニャン吉様について行きマス」
「こっちこそ頼むにゃん! お前みたいな強い仲間が欲しかったにゃん。ところで、お前名前は何ていうんだにゃん?」
「品種は三世デス」
「何か似合わんにゃあ。そうだ、『レモン』でどうだにゃ?
「承知シマシタ」
「そうだ、仲間を紹介するにゃん。集太郎! ペラアホ! こっちへ来るにゃん」
鬼の手から開放されてからというもの、その辺に転がる石に隠れていた虫たち。ニャン吉に呼ばれて恐る恐るやって来た。
「ニャ吉、そいちゅは襲ってこんか?」
「蜻蛉を食べなーいかい?」
レモンは虫たちを見ると目を細め微笑んだ。
「大丈夫だにゃん。レモン、あいさつだにゃん」
レモンは丁寧に集太郎にあいさつをした。
「初めまして、レモンデス」
「初めまして、花尾集太郎でしゅ」
「ヨロシク、
「羽虫? 蝶々は羽虫じゃないで。でも羽虫も悪くないの。よろしくの」
「羽虫で良いのかにゃ……」
奇妙な呼び方に集太郎は何故か喜び、レモンの周囲を舞いだした。
レモンは丁寧にペラアホにあいさつをした。
「初めまして、レモンデス。ヨロシク」
「よろしーく。俺はさすらいの蜻蛉。名前はペラペーラ・ア・ホーンだ。親しい奴はペラアホと呼んでるぜーい」
「ヨロシク、ヤゴノ大人」
「ヤゴの大人か、粋だーね」
「お前もヤゴの大人で良いのかにゃ!」
ヤゴの大人という時空が歪みそうな謎の呼び方にペラアホは陶酔している。
虫たちとの対面を終えると、岩に肘を付き傍観を決め込んでいた鬼市が偉そうに出てきた。
「僕は魔界鬼市。ここにいる生ゴミの付き人さ。まあ、よろしく」
《《生ゴミという一言にレモンは青筋が立った。憤怒に燃え、震える声で鬼市に聞く。
「……その生ゴミとかいうのは、ニャン吉様のことを指しているノカ。小鬼ぃ!」
図に乗った鬼市は得意気にペラペラと喋りだした。よりによって、今日は特に饒舌で、嫌味が冴えていた。
「ああ、この生ゴミはねぇ、くたばった時に前の御主人様に生ゴミで出されたのさ。いつ見ても臭いにゃんってなぁ」
嫌味たっぷりにニャン吉の頭をペシッとはたく鬼市。それが鬼市の悪運尽きた瞬間となった。怒りに燃えるレモンの横顔を見た虫たちが遠くへ避難した。
レモンは頭上に伸びた蔦の先、口のある花を鬼市を覗き込むように向ける。鬼市に花の影が幾つも落ち、影だけみるとヤマタノオロチに狙われているように見えた。
「にゃ……レモ――」
息を呑むニャン吉。気付かず高笑いする鬼市。
獲物に照準を合わせたレモンは全ての口を開けるとそこから種を弾丸の如く鬼市めがけ撃った。
「痛っ、何をする!? クソ植物が!」
「ハハハ、種ミサイルでは手緩いと見えるナ」
目を血走らせ殺気を発するレモン。蔦を出し地面をシュルシュルと走らせ鬼市の足を縛りつけると、逆さ吊りにして種ミサイルを連発した。
「テールテールボウズ、テールボウズ」
「にゃああ! にゃああ!」とニャン吉は興奮気味にレモンの周りをクルクル回る。
レモンの御主人様を侮辱された怒りは簡単には収まらなかった。レモンの目には、『赦してなるものか』という怨念がこもっている。
集太郎はその姿を「罰が当たってやっと地獄に落ちたの」と表現した。
ペラアホも続いて「因果は強引だーね」と表現した。
一頻り鬼市にお仕置きをすると、頃合いを見てニャン吉が悠々と止めに入る。
「やめるにゃんにゃん、レモン。これでも一応仲間だにゃんにゃん。一応にゃ」
ニャン吉は鬼市に優しく微笑みかけた。その顔にはざまあみろと書いてあった。
「……分かりマシタ、死なない程度でやめときマショウ」
レモンはニャン吉の説得でやっとやめた。蔦を空中で緩めると鬼市はドサッと地面に落ちた。ボロボロになった鬼市は立てない。
地面に両手をつき鬼市が顔を上げると、胸ぐらを掴んで摘み上げたレモンが訓戒を与える。
「ニャン吉様に免じて今回は許してやる。だが次は無いゾ! 人を傷つける言葉を吐いたら自分が飲むのダ。分かったナ! 小鬼!」
鬼市のお仕置きが終わる頃。倒れていた鬼たちがやっと起きてきて「参ったぁ、降参だ!」と宣言した。
「従うにゃんね!」
ニャン吉が言うと同時に火山がドオンと轟音を響かせ爆発した。
「また噴火したにゃん! 逃げるにゃん!」
「大丈夫だあ、こんの火山は灰しか降らせんべ」
「そうなのかにゃん?」
半信半疑でニャン吉が山を見ていると、ドカンと爆発音を轟かせマグマが吹き上げてきた。山に生えた木々を巻き込みながらマグマが流れてくる。
「そ……そんなあ、馬鹿な……」
鬼たちはひどく狼狽した。
「と……とにかく避難だにゃん!」
――閻魔帳の三世の化身は鬼たちを屈服させた。名付けて三世レモン。鬼たちが従うと同時に死火山のはずの山が噴火しマグマが吹き出した。
『次回「火山」』
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