第5話 火中を探せ

 火炎地獄の下り門へ縮地したニャン吉とクラブ。下り門の前では天龍と酒呑童子とおたふくボーズが門の守りを固めていたのでニャン吉達は不意打ちを食らわずに済んだ。囚人兵はこちらの様子を伺い攻めあぐねているようである。


 ニャン吉の方を天龍達が振り向くと、ニャン吉は天龍に子細を尋ねた。

「何というかニャン吉……いや、今は獅子王であったな。見ての通り何とか門から斥けておるが……いつ破られるか分からん」

「天龍、この地獄のどこかにタレがいると思うにゃん。タレの救出を手伝って欲しいにゃん」


 天龍は酒呑童子の方を向いて「お前が行ってくれ」と命じた。

「はい、分かりました。さあ、獅子王さん行きます……とその前にニャベアを塗って」

「おお! そうであった! ニャベアを塗らねば」

 天龍と酒呑童子の親子はお肌の薬、ニャベアを塗り始めた。

(早くしろにゃ)


「私のお肌に塗ーりぬり。さて」

 酒呑童子は千里眼で周囲を見渡した。すると、はるか遠くで火喰鳥の気配を感じた。

「……あちらです、急ぎましょう!」

 ニャン吉達は囚人の囲いを破り、タレの気配がする方へ駆ける。


 次々に襲い来る囚人兵は毒地獄の奴より遥かに手強かった。一人を倒すのにも骨が折れ、遅々として進まない。


「こいつら毒地獄の奴等より遥かに強いにゃん!」

 酒呑童子は走りながら「罪業が重い程強い囚人兵になるのでは」と自分の考えを述べた。


 ニャン吉達は囚人兵を薙ぎ倒し、次々に橋を渡り島をいくつも越えて行く。タレの気配がする位置の近くの島まで辿り着いた。

「酒呑童子、ここら辺で千里眼だにゃ」

 ニャン吉は千里眼で周囲を見渡した。すると、タレがこちらに近付いているのが視えた。


「むこうから来るにゃん!」

「ところで獅子王さん。この手口なのですが……その昔、魔界鬼反が使ったものとよく似ておりまして」

 酒呑童子の言葉にニャン吉とクラブが振り返る。

 クラブは青い顔して「鬼反ならこの前死刑になったじゃないか」と酒呑童子にハサミを向ける。それに酒呑童子は応える。

「この魔法を使える奴はまだいます」

(魔界鬼市か!)とニャン吉とクラブは嫌でも頭によぎる。


 魔界鬼反の子孫であり、魔法の達人であり、ニャン吉の仲間で唯一ミケに指名手配から外された人物。ニャン吉はその上、鬼市が魔法と獄卒士の免許を閻魔に取り上げられた恨みから閻魔を魔神砲で狙っていることも知っている。


 ニャン吉達が待っているとタレが「クエッ! ニャン犬! クラブ!」と大声で呼んで空から降りてきた。

「タレ! 無事だったかにゃん!」

 ニャン吉とタレは合流したら、すぐに火炎地獄の下り門へ縮地した。


 下り門でニャン吉はタレに何故ここへ来たのか尋ねる。タレは両親の出会ったこの地獄をゆっくりと一人で観て回りたかったらしい。


 タレが火炎地獄を回っていると、突然囚人兵が火の海から飛び出し襲ってきたらしい。囚人兵を千里眼で視て髑髏印を破壊して応戦していたが、囚人兵は増え続ける。タレはきりが無いと判断すると遥か上空へ避難していたらしい。


「でもタレ、どうして天龍達の方へ飛んで行かなかったにゃ?」

「クエッ! 黒い鳥に襲われた!」

「にゃ! 不埒鳥かにゃ!」

「クエッ! 不埒鳥! そいつだ! そう名乗った」

「それでどうなったにゃん!」

「戦ったクエッ」

「にゃんと!」

「奴と少し戦ったが、今の私に勝てそうになかったから逃げた。逃げ回る内にあいつ、いなくなってたクエッ」

「そいつはにゃ?」

「クエッ、分からん」


 ニャン吉達はミケ達が番犬の首輪を持っていることをほぼ確信していた。地獄封鎖ヘルロックダウン中であるのにも関わらず、毒地獄で見たケロケロ外道が魔境地獄から送られて来たミケの挑戦状に出ていたからだ。


 ただ、あのケロケロ外道が偽物だったり、鬼反のように魔法の力で地獄門を開けていたとすると別であるが……。特に後者が地獄封鎖ヘルロックダウン中でもできるとすれば、鬼市が敵であることはほぼ間違いなくなる。閻魔もそれを分かっていて黙っていた。


 鬼市は敵である、そう閻魔が発言すれば即鬼市討伐令となる。


 ニャン吉、クラブ、タレは酒呑童子と天龍に別れを告げ閻魔の間の登竜門へ縮地した。


 閻魔の間には骨男が心配してニャン吉の帰りを待っていた。

「おう! クラブ! タレ! 無事で良かったぜ!」

 骨男は早速クラブとタレに縮地輪を渡して、使い方を説明した。


 ニャン吉は縮地輪を見ると不安な気持ちになってきた。そこでニャン吉は閻魔に子細を報告した後尋ねる。

「閻魔、あいつら番犬の首輪を持っているんじゃにゃいか?」

「恐らくそうだ。もし、魔法で門を開けられるなら常に単独行動する意味はない……安心したか?」

「どういう意味だにゃ?」

「あれは番犬候補以外が使うと使った本人しか縮地できんのだ」


 閻魔も慎重であった。魔法がなどと言えば真っ先に鬼市が疑われる。鬼市討伐の命を出さねばならなくなる。


「しかし……奴等は何をしておるか……」

 ニャン吉達が声をそろえて「誰が?」と聞く。


 閻魔は人払いし、ニャン吉達に近寄るように手招きする。ニャン吉達は近寄ると閻魔は小声で話す。

「魔境の魔族共だ。本来なら魔境地獄の奴等が討伐すべきだと言うのに、一向に動き出す気配がせん」

「にゃんで奴等はうごかにゃい? やっぱりあれかにゃ?」

「待て! 獅子王、それ以上言うなよ」

 本来なら魔境地獄で始まった反乱。魔族が番犬より先にミケ・モモ連合軍を討伐せねばならない。それを怠った天子魔悪道の狙いは明白。それは魔王が出てくれば再び地獄の侵略ができるからだ。


「今分かっているのは、ミケ・モモ連合軍は伏魔殿を拠点に活動していることと、天子魔率いる魔族はミケ・モモ連合軍が襲ってきたら抵抗らしい抵抗もせず伏魔殿を開け渡したことだ」

「あいつら! にゃんクソ!」

 閻魔は決断を迫られていた。


 ――タレを救出したニャン吉。閻魔は難しい判断をしなければならない。鬼市を討伐するかせざるか……。責務を怠る魔族に戦いを催促するか放置し番犬に任せるか……。


 緊急事態宣言レベルニ、地獄封鎖ヘルロックダウン中。


『次回「悪寒谷の激闘」』

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