第8話 異能の種
お冠案件。
強制的にこの世界へ召喚した云々よりも、召喚者が男しかいない事実。俺はこちらに怒っている。
不謹慎は重々承知だが、日本人で健康体かつ自殺しそうな女性がいなかったとでもいうのか。そんなわけあるまい。
もちろん、日本人女性が召喚されたとて、その人と必ず何かあるとは思わない。だが存在するだけで違う。可能性が引くかろうと希望を持たせてほしいのよ。
男だらけの異世界物語なんて誰が見るかよ。
「………魔法を使えるかどうかは、貴方たち次第だ」
俺の内心を無視して話は進む。イケメンボーイは草食メガネに回答した後、指をパチンと鳴らした。
すると玉座の斜め後方にある扉から、執事のような男性が現れた。1人だけではない。2人、3人、4人。全員が両手で何かを抱えている。
「前例から考えるに、貴方たちは人間である以外何もない。今のままでは打倒帝国など夢の話だ。そのため、今から特別な力を与える」
イケメンボーイがもう1度指を鳴らす。するとどうしたことか、ザザザという耳障りな音がするやいなや、目の前に石造りのテーブルが現れたではないか。
「え、あ、まさか、魔法!?」
草食メガネが叫んだ。彼の目前にも同様のテーブルがある。
執事風の男達は4人のテーブルそれぞれに抱えていたモノを置いた。
見た目は大きな卵だ。大体のサイズで言えばダチョウの卵だろうか。ただし外殻は真っ黒。
「だ、ダークマター……」
草食メガネの興奮が感じ取れる。この人ちょっと気持ち悪い。
「………なるほどな。"これ"が異世界人でなければならない理由か?」
ワイルド中年が黒卵を指さす。
「そうだ。その黒玉はディフアシードと言う。異なる世界の住人のみに扱える代物だ。我々が触れたところで何も起きない。だが貴方たちが触れることで、新たな力の源を得ることができる。これは前例が証明している」
「源、か。急に強くなるってわけじゃなさそうだな」
「察しが良い人間は好きだ。あくまで源、種を植え付けるだけ。どんな成長を遂げるかは貴方たち次第だ。1つだけ言えるとすれば、どんな種でも帝国を打倒する力を秘めている。それは間違いない」
「成長……レベル制か?いや、スキル性……?」
隣からぶつぶつ聞こえてくる。この人IT系っぽいな。俺の会社に似ている人がいる。
そんなことより聞き捨てならないのは、前例という言葉だ。召喚手続に確実性があるくらいだから俺たちが初めてではないと思っていたが、以前にも召喚された人がいるようだ。彼ら彼女らがどうなったかは後で確認する必要があるだろう。
「………………」
しかし今更だが。
ここは異世界なのだろうか。
現実感がなさ過ぎて驚くこともできない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます