第7話 背景

「こんなに動物がいたら世話をするのも大変でしょうに。皆さんで分担しているんですか?」

「基本は家族で世話をするよ。長男は猿。長女は鳥。次男は兎。次女は鼠といった感じに担当が決まっているんだよ」

「なるほど。名前に見合った担当決めですね。それはご主人が決めたんですか?」

「いや、子供達の希望もある。名前の動物もすっかり愛着が湧いてね。いつも率先して世話をしてくれているよ」

 子供に動物の名前を付けるのも驚きだが、実際に付けられた動物の世話までしているとなると奇妙な話である。しかし、子供達は満更でもない様子だ。愛情は少なからず感じる。

「それ以外の動物はご主人が見ているんですか? 犬とか猫とか」

「そうだね。見られる時は見るけど、忙しくてね。猫宮さんかうちの社員の服部って人が見てくれるよ」

 先程、廊下ですれ違った男性が頭に浮かんだ。社員ってどういうことだろうか。そんなことを考えると横から神楽坂さんに声をかけられる。

「犬くん。犬の世話ポジションが空いているわよ」

 神楽坂さんは立候補しろよと言わんばかりに肘で僕の腕を小突く。いや、いや。いくら僕が犬でも知らない家庭の犬の世話をするほどお人好しではない。軽く流すと神楽坂さんは面白くないといった感じでつまらなそうな顔をした。

 それより、主人が動物好きとよりも一番気になることがある。

「ところで兼近さんはどのようなお仕事をしているんですか」

 僕の聞きたいことを代弁するように神楽坂さんは聞いてくれた。

「私は動物病院を経営しているよ。院長でもある」

「もしかして兼近総合動物病院ですか」と、神楽坂さんは反応した。

「あぁ、その通りだ。よく分かったね」

「兼近総合動物病院と言えばこの市内では有名ですよ。動物に関しては素晴らしい技術と知識をお持ちだとか。お若いのに凄いですね」

「いや、いや。もう五十三だよ。いいおじさんさ」

 豪邸の謎がこれで分かった訳だが、成田教授の人脈は計り知れない。只者ではないことは間違いない。いや、それと繋がっている神楽坂さんも驚きである。

しかし、目のやり場に困る。どこを見ても何かしらの動物が視界に入る。僕としては落ち着かない。一方で神楽坂さんは楽しそうである。初デートのつもりで来たがこれはこれで神楽坂さんの意外な一面が見られて満足である。

「兼近さん。ちなみに何匹くらい飼っていらっしゃるんですか?」

「そうだな。ざっと五十匹……いや、もっとかな。この部屋以外にもまだいるんだよ」

「凄い。是非見せて下さい」

 神楽坂さんは飛び上がるように言った。

「勿論だ。今日はその為に来てくれたんだからね。その前に私のコレクションでも見ていかないか」

「コレクションですか?」

「本物の動物も良いが、絵も好きなんだ。おーい有栖。来てくれ」

「はい、はい。どうしました?」

 部屋に入ってきたのは三十代前半くらいの若い女性だった。下手をしたら二十代でも納得してしまう。この人が奥さん? 

「妻の有栖だ」

「どうも」と奥さんはお辞儀をする。

 ここでも神楽坂さんと僕はお約束の挨拶をする。

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