第4話『使えない二人組』
「それではお願いします」
「かしこまりました。数日中には腕利きの者を集めさせていただきます。どうぞ良い旅を」
「ありがとうございます」
ウォルターは冒険者ギルドのお偉い人に、建物の外までお見送りされています。
持っていた少なめの金貨五十枚を冒険者ギルドに預けると、何故か待遇が大幅にアップしました。
「さて、どっちに行こうか……」
建物の外に出ると、ウォルターは考えています。
紹介された高級宿屋に向かうか、海賊船の船長をやっていたリランという男の屋敷に向かうか……。
そんな考えごとに夢中になっていたウォルターに魔の手が伸びていました。
「お兄さん、お金持ちなんだね。どう? 私を料理人に雇わない?」
冒険者ギルドの建物の壁を背にして座っていた女性が、落ち込んだ声でウォルターに話しかけてきました。
先程、冒険者登録も出来ずに追い出された生クリームだけ職人です。
「えっーと、ちょっと……」
落ち込んでいる女性に対して、流石にいらないとハッキリとは言えません。
ウォルターはどう答えようかと迷っています。
そんなウォルターを見て、女性は答えを聞く前に自分で答えを言い始めました。
「うん、別に答えなくてもいいよ。聞いてみただけだから。そうだよね。生クリームしか作れない料理人はいらないよね。でも、本当は卵も混ぜられるんだよ。たまに卵の殻も入っちゃうけど……」
「そうなんですか。大変ですね」
多分、料理人の才能が確実にないです。
スキルが『混ぜる』だったから、料理人の才能があると思い込んでいるなら、早く転職した方がいいです。
土を混ぜたり、酒を混ぜたり、薬草を混ぜたり……混ぜたりする仕事は色々あります。
「うん、そうなんだよ。最近お店に入った新人に、あっという間に追い越されちゃって。もう貯金も無くて、死ぬ気で働こうと思って、冒険者ギルドまでやって来たのに、登録で断られるなんて……はっははは、もう死ぬしかないんだよね」
力なく笑う女性の目は人生に絶望して光を失っています。
まだ、そこまでの苦労もしてないのに絶望するには早い、と叱りたいですが、放っておくと本当に行き倒れていそうで怖いです。ウォルターはやめた方がいいと思いながら、少しだけ助ける事に決めました。
「じゃあ、こうしませんか。僕もこの町というか、この国に来たのは初めてで困っていたところなんですよ。町の案内を銀貨……三枚で引き受けてくれませんか?」
破格の道案内ですが、他に頼めそうな仕事はありません。ちょっとした人助けと思って頼みました。
「えっ、銀貨三枚も⁉︎ 凄い、やっぱりお金持ちはスケールが違うよ! もちろん、よろしくお願いします! どこでも案内させていただきます!」
「それじゃあ、契約完了ですね。料金は先払いしておきますね」
ウォルターは軽くなった袋に右手を入れると、銀貨を三枚取り出して、死んだ目から生き返った女性に渡しました。
「それじゃあ、リランさんの屋敷まで道案内をお願いします。場所は分かりますよね?」
「リランさん? えっーと、そこはちょっと分かんないかなぁ~。あっはははは」
困った顔で少しだけ考えた後に、女性は笑って誤魔化しました。予想以上というか、予想通りに使えません。
でも、ウォルターはリランの屋敷の住所は聞いています。町の人達に聞きながら目的地に到着しました。
♦︎
大きな門構えのリランの屋敷の前には、二人の大柄な男門番がいました。
ウォルターは何とかリランに会って、母親の居場所を聞きたいです。
でも、普通に聞いても答えるはずがありません。むしろ、怪しまれてしまいます。
だから、屋敷に使用人として雇ってもらう事に決めました。
「駄目だ、駄目だ! 痛い目に遭いたくないなら帰れ!」
「そこを何とかお願いします! 雇ってください! 海の仕事なら大得意です!」
「そうです! 私も料理は大得意なんです! 雇ってください!」
門番が二人だったので、生クリーム職人の女性=ミファリスにも手伝ってもらっています。
片方だけでも雇ってもらえれば、屋敷の中に母親がいないか調べられます。
でも、どちらも門番の面接で落とされてしまっています。
「しつこいぞ、この雑魚どもが! スキル『泳ぐ』に、スキル『混ぜる』だと? リラン様は戦闘系のスキルを持つ者しか雇わん。それにウォルターにミファリスだと? そんな名前聞いた事もないわ! 少しは名を上げて出直して来い! さっさと消えろ! 骨をへし折るぞ!」
「あうっ!」「きゃあ!」
ウォルターとミファリスは、門番二人に乱暴にドォンと突き飛ばされて、地面に倒されました。
「痛たたた、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。馬鹿にされるのは慣れてますから……」
ウォルターは急いで、倒れているミファリスを助け起こしました。
悔しいですが、門番相手にも力の差は歴然です。
門番に言われた通りに、町での知名度を上げるしかなさそうです。
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